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ミステリの祭典

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出走
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1999年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/08/10 07:35登録)
 一九九八年に刊行されたシリーズ唯一の短篇集。第36作『騎乗』の翌年に発表された。原題 Field of 13 は、"十三頭立てレース"の意。その比喩通り既に雑誌掲載された短篇作品八作と、本書のために書き下ろされた五作から成る。
 一九七〇年、アメリカの《スポーツ・イラストレイテッド》に掲載された記念すべき初の短篇「強襲」を筆頭に八作品を並べると 特種/悪夢/キングダム・ヒル競馬場の略奪/敗者ばかりの日/ブラインド・チャンス/春の憂鬱/ブライト・ホワイト・スター の順になる。初出誌は同誌ほか《ロンドン・タイムズ》《ホース・アンド・ハウンド》《ザ・フィールド》など。なお「ブラインド・チャンス」は底をついた〈ディテクション・クラブ〉の基金を補充する短篇集『13の判決』のために、「春の憂鬱」はめずらしくも婦人誌《ウィメンズ・オウン》向けに執筆された。
 一九八五年掲載の「ブライト・ホワイト・スター」を除けば年一作からだいたい二~三年に一作、一九七〇年から一九八〇年にかけて約十年間、第10作『混戦』から第19作『反射』にかけての時期になる。ただ書き下ろし作品も含め、各篇の出来不出来に大きな差は無い。
 捻りのあるオチを付けたもの、ミステリ趣向強めのものと様々だが、著者は既にスタイルを確立させた作家なので、やはりミニ・競馬シリーズ風の心地良い話がしっくりくる。好みでいくと書き下ろし作品からは「衝突」「迷路」それに劇的なレース展開の「波紋」、既存のものからは「春の憂鬱」とクリスマス・ストーリーの「ブライト・ホワイト・スター」だろうか。「春の憂鬱」は自身が「たいへん楽しみながら書いた」という短篇。中年女性の愛を利用する発端からいつものフランシスになる。こういうのもたまには悪くないが、シリーズを読みつけていると短篇集では少々食い足りない心地がする。やはりフランシスは長篇がいい。

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