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ミステリの祭典

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情事の終り
別題『愛の終り』

作家 グレアム・グリーン
出版日1952年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2019/05/02 21:17登録)
グリーンしなきゃ、とは思ってたんだけど、今はそんなに入手性がいい感じではないし、ついつい後回しにしていた。まあ厄介なものからやろうか。グリーンでも純文学系、というか、愛と信仰を扱ったガチの思想小説である。当サイト的には....とか言っても、実は本作はミステリの手法をそのまま使って思想小説をやって、それが成功している小説でもある。まあだから、評点6はミステリ以外の目的で使う「ミステリの使い方」ってものもあるんだよ、という意味での仮評点。作品内容に対する評価点ではない。
実際、本作だと本当に私立探偵だって登場。このパーキス君、子供をダシにいろいろ策を巡らせるけど、なかなかイイ奴。で、主人公の独身作家モーリスは、高級官僚ヘンリの妻サラァと第二次大戦中のロンドンで、不倫の関係を楽しんでいた。二人が密会していた部屋がロケット弾で破壊されたことをきっかけに不倫の関係を断った二人だが、戦後再開したことで、夫ヘンリを含めた交友が復活する。ある日、ヘンリはモーリスに妻の挙動を探ってほしいと依頼される。モーリスは探偵社にサラァの尾行を依頼するのだが、モーリスの心は嫉妬に揺れだす....新しい男は誰だ?
と本当にミステリみたいな話なのだが、ネタバレしちゃうとサラァの恋人は「神」である。肉体的な愛と神への愛の対立が、モーリスにしてみれば「神への嫉妬」として表現され、モーリスの追求は「神を追いつめる」追跡となる。だからこそ「ミステリ」なのだ。サラァがモーリスの愛を拒めば拒むほどに、モーリスは神を恨みサラァに執着し続ける。この板挟みの中でサラァは衰弱死するが、その死後にさまざまな出来事がモーリスには「奇蹟」にしか見えない暗合となって、サラァの信仰を証する結果となって、モーリスを打ちのめすのだった...
とはいえ、本作の筆致は心理的ではあってもリアリスティックなものだし、一人だけ登場するカトリックの神父も大した人物に描かれているわけではない。本作はあくまでモーリスの心理の迷路を辿るものであって、奇蹟だってただの暗合にすぎない。本作は超越、というテーマを扱いながらも、それを歯噛みしながら見上げる一つの視点なのだ。

私はすでに倦み疲れ、愛を学ぶには老い過ぎました。永久に私をお見限りください。

(信仰のバックグラウンドのない日本人には、さすがにキッツい小説です。評者もどれだけ理解できているか自信ないです。それでも読みづらいことはなくて、随所に現れる印象的な表現を追っていくだけでも読む価値はあり)

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