ミルナの座敷 英彦&夏子・兄妹シリーズ |
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作家 | 須知徳平 |
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出版日 | 1983年06月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2019/05/01 14:57登録) (ネタバレなし) その年の夏休み。「ぼく」こと小学校6年生の英彦は一つ年下のお転婆な妹・夏子を連れて、東北の彦呂村にあるおじさんの家に行く。館屋敷と呼ばれるおじさんの家には幸介と清介という同年代の従兄弟の兄弟がいたが、本当はもうひとり、この家には11年前に生後10日で死亡した妹の芳子がいた。英彦たちの訪問はその芳子の供養のためでもあった。芳子の産まれた部屋は、産小屋(うぶごや)と呼ばれる、出産時に妊婦がこもる離れ部屋。だが今は悲しい思い出を弔うように「ミルナの座敷」と呼ばれて施錠されて管理されていた。だがその密室の中から、そこに納められていた観音像が抱きかかえる、赤ん坊を象どった立体物が消えてしまう……。 1962年に元版が刊行されたジュブナイルミステリで、第三回講談社児童文学賞受賞作品。「本格ミステリフラッシュバック」で紹介されていたので以前から気になっていたが、このたび読んでみた(評者が手にしたのは、講談社の1983年の青い鳥文庫版)。青い鳥文庫版の巻末で解説を書いている児童文学評論家の田宮悠三という人が言うとおり、日本版トム・ソーヤというものが書かれたならこんな感じか、という従兄弟同士4人の少年少女探偵団を主人公にした健全で清廉なジュブナイル作品で、ミステリとしては肝心の密室の謎解きの真相をふくめて、大人が読んで騒ぐものでもない。それでも少年少女の視点で推理という作業をきちんと探求し、「だれが」「なぜ」「いつ」「どのように」さらに盗んだ品を「どこに」隠したかという5つの謎を整理しながらアマチュア捜査を進めていく物語は、成人が読んでもなかなかほほえましい。事件後の決着も踏まえて精神性も潔癖な、好ましい児童向けの読み物であろう。 ちなみに青い鳥文庫版の裏表紙のあらすじ、さらに前述の田宮氏の巻末の解説は作品のネタバレになっているので注意。特に後者の巻末の解説はお断りなしに真犯人の名前まで堂々と明かしながら、自分の言いたいことを言っている。今だったらブーイングの嵐であろう。ミステリ読者、ファン同士のマナーや約束事を知らない場だと、昔はこういう事態が起きることもあった。 |