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ミステリの祭典

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ナイフと封筒

作家 内田美奈子
出版日1983年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2019/05/31 15:26登録)
 1982年から1980年代後半にかけて独特のシャープな絵柄で異彩を放った作者の処女短編集。ミステリ・SF・恋愛物・パロディなど彩りも豊か。表題作から意味不明漫画「少年探偵団」まで、全7編収録。
 まず奇妙な切り口で興味を引くのは表題作。大学サークルの演劇同好会でモラトリアムな日々を送る主人公・明川荘之もはや卒業間近。そんな折、ちょっと気になる女の子・波多野仁美が突然失踪した。同好会の舞台美術担当・三原陵一が、波多野と同じ赤い石の指輪を填めていたのが気に掛かる。三原はその名の通り、赤・青・黄の三色しか舞台美術に使わない変わり者だった。
 荘之は失踪前に貸した辞書の「な行」が破られていたことから、最後の舞台の大道具「ナイフ」の中に、仁美のメッセージが残されていると推測するのだが――
  他のミステリ系作品は、幼年期のトラウマに悩まされる会社員、クリフォード・フラナガンが過去の恐怖を克服するまでを描いた洋画風タッチの作品「チェンジ」。ですが次点は高慢な女の子・言子と、それでもいつの日か翔ぶ事を夢見る取り巻きの男の子・東のラブストーリー「フライング・エッグ」。
 のちの雑誌「WINGS」掲載SF長編「赤々丸」に通じるヘンテコSF「良治郎帰還せず」、「アニマル・フレンズ ―海明音の裁判―」。ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」を思わせる小品「アヒルのいる海を背景にして」。いずれもどこかシニカルな持ち味が楽しめます。
 現在オフィシャル作品として、まるまる200P余りが各所で無料購読できるのも魅力。結構粒の揃った短編集が何てったってタダですよ、タダ。
 少女漫画らしからぬ鋭い描線が特徴ですが、そういやこの人、師匠である御厨さと美氏の代表作「裂けた旅券(パスポート)」でアシスタントもやってたなあ。こちらも「ゴルゴ13」と「MASTERキートン」を繋ぐ位置付けの国際サスペンス風連作なので、機会があれば書評してみたいですね。

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