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ミステリの祭典

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試走
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1980年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/07/24 07:29登録)
(ネタバレなし)
 1977年11月の英国。私こと、視力の低下から障害騎手を引退した32歳のランドル・ドルーは、仲介の紳士ルーバート・ヒューズ・ベケットを通じて、以前から懇意である英国の「王子」から相談を受ける。王子の願いは、妻の実弟で現在22歳の若手騎手ジョニイ・ファリングフォド卿に同性愛者の疑いがかかっているという。3年後のモスクワ五輪の選抜選手として本命候補のジョニイだが、ソ連では同性愛は処罰の対象で、しかもジョニイは何者から暴力沙汰で脅されているらしい。事件の背後に、ソ連内の謎の人物「アリョシャ」がいるらしいと認めたランドルは、王子の依頼を断り切れず、やむなくモスクワに調査に向かうが。

 1978年の英国作品。競馬シリーズ第17作目。
 
 オリンピックネタの話だが、開催日に読んだのはまったくの偶然(少し前から未読の一冊を書庫から出してあり、近くに置いておいた)。
 ホントよ、ホントだよ、信じてくれ!(Ⓒボヤ騒ぎ直後のいじわるばあさん)

 でまあこの邦訳の元版ハードカバー(ハヤカワノヴェルズ版)は1980年の1月末に発売されており、帯でも「モスクワで待ちうける罠」などと堂々と大書き。つまりはものの見事に80年の現実のモスクワオリンピックの熱狂ムーブメントに乗ることを当て込んで売られた一冊だったのだが、周知のように日本はその直後の80年2月に不参加ポイコットを表明。ものの見事にハシゴを外された悲運の作品であった。
 まあ当時は、そういう作品はいくらでもあったけどね(……)。

 それで中身の方も時局を当て込んだキワモノ的な部分がまったくなきにしもあらず……とまでは言わないが、けっこう主人公ランドルのモスクワ探訪の臨場感で読ませている部分も確かにある。
 そういう意味で今回はいささかユルい作りかな、と思っていたら、後半でかなりぶっとんだ事件の真相が用意されていて、軽く「おおっ!」と驚いた。
 モスクワ調査のさなか、イギリス人もソ連人も人種も国籍も問わず、馬を愛する競馬界の人たちは基本的にいい人、という文脈でストーリーが進むのも、まあこういう企画ものということも踏まえて、スナオに微笑ましい。

 ただまあ終盤で明らかになる、序盤からのキーワードの真相は何じゃらほい、だし、ラストのどんでん返しもちょっとなあ……というオチ。そこまでは、前述のド外れた謀略の真相(というかそれが生じた背景)を核になかなかだったんだけどね。

 7点行くかな、と思いながら、ぎりぎり6点の域に留まりました。とはいえシリーズのこの次はあの人気作品『利腕』ながら、ストーリーの練りようそのものは、こっちの方がまだいいような感じもある。まあもうちょっと体系的にシリーズを精読、再読しないと見えないところもあるけれど。

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