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ミステリの祭典

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虚無への供物(アドニス版)
「小説推理」2005年1月号再録掲載

作家 中井英夫
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2019/04/14 23:47登録)
「虚無への供物」をやりついでに、参考資料として。翠川潭名義で、ゲイカルチャー雑誌の先駆だった「アドニス」に掲載された「虚無への供物」の同題の原型が、「小説推理」2005年1月号に再録されている。評者は図書館でコピーして読んだ(初出誌はトンデモなく高価で入手難なのは言うまでもない)。「アドニス」では4回掲載されて序章のまま中絶したが、この「小説推理」では最初の2回分しか載っていない。ぜひぜひ何かのかたちで後半2回も世に出てほしいので、当サイト的にはやや反則だけど、書評することにする。
登場するのは氷沼家の蒼司、紅司、藍司とアリョーシャ、それに鴻巣玄次、冒頭はそのままでおキミちゃんに相当するヒロちゃんのサロメで、八田晧吉に相当する花房晧吉は出るが、橙二郎は名前だけ、久生と牟礼田、藤木田老は出ない。設定上一番違うのは、狂言回しのアリョーシャで、同性愛者としてしっかり描かれていて、藍司とゲイバーで会ったのをきっかけに氷沼家を訪れるのはそのままだが、再会の場で「憧れの先輩」だった蒼司とアリョーシャは....という展開。で花房(八田)が家を改築して売る商売なのは同じで、外人向けに趣向を凝らした鏡張りの浴室で、アリョーシャと藍司がエッチして、同日同刻に本郷動坂の黒馬荘では鴻巣玄次と紅司がSMプレイ中...という状況。基本的にキャラ設定は後のバージョンと同じ、と見た方が良くて、さまざまなガジェットも同様に登場する。この時点で舞台設定はほぼ出来上がっている。がまあ、最初の2回は基本的に耽美小説というかBL小説みたいなものである。
評者はアリョーシャはアドニス版の方が納得のいくキャラのようにも感じる。意外に男性的な魅力が出ていて、逆に蒼司が弱々しく女性的な印象。後の「虚無への供物」だってゲイ小説なことは言うまでもないわけで、風呂場での紅司の死にエロティシズムを感じないほうがどうかしていると評者は思うよ。
ゲイ雑誌なので当然というか、女性キャラは一人も出ない。久生は後から導入されたキャラなのは明白だろう。後の「虚無への供物」で

きょうが初釜。あなた方ももうお開きはお済みになって?

なんてシモネタを言い放つ久生をウザく感じるのは、そりゃオジャマ虫のオコゲ女だからだよ。当然というものじゃないのかね。

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