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ミステリの祭典

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ルータ王国の危機

作家 エドガー・ライス・バローズ
出版日1981年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/04/14 03:36登録)
(ネタバレなし)
 1910年代。欧州が世界大戦の危機に揺れる中、アメリカはネブラスカ州生まれの青年バーニー・カスターは、母ヴィクトリアの故郷であるヨーロッパの小国ルータ王国を訪れる。そこはバーニーの若き日の父と母が恋に落ち、そのまま二人で父の母国アメリカへと駆け落ちした、彼らの思い出の地でもあった。だが現在の王国では10年もの間神経を病んでいた若き国王レオポルトが療養所から姿を消し、その隙に野心を秘めた摂政フレンツ公ペーテルが政治の実権を掌握、あわよくば自らが国王になろうと謀略を進めていた。そんな中、バーニーは件の国王レオポルトが自分と瓜二つであると知って驚愕。さらに王宮の関係者や貴族の一部もまた、行方不明の国王と自分を取り違えていることに気がつくが……。

「火星シリーズ」「金星シリーズ」「ペルシダー」「ターザン」ほかのSF、秘境冒険小説の連作で有名なバローズが1926年に刊行した、完全に非SF・非スーパーナチュラルな20世紀の欧州を舞台にした正統派・巻き込まれ型の冒険小説。
(本書の背表紙には赤々と「SF」マークがついてるが、多分これはあくまで、「バローズ作品ならSF」という紋切型の分類に従っただけだろう。)

 ヨーロッパの小国を舞台に国王と同じ顔の主人公……といえばホープの『ゼンダ城の虜』オマージュなのは同作を未読(汗)の評者でも読む前から見当がつき、実際にみずから本作を翻訳担当した厚木淳(言うまでもないが昭和期の創元の編集主幹)も解説でその旨を書いているが、さらにその厚木の言によれば『ゼンダ』については趣向として設定のコンセプトを借款しただけで、ストーリー展開はおおむねバローズのオリジナルらしい。

 作品は第一部「摂政公の反逆」と第二部「二人の国王」の2パートで構成され、前者が1914年、後者が翌15年に雑誌に連載されたのちおよそ10年後に一冊にまとめて書籍化された。雑誌の初出から本になるまで時間がかかったのは『ゼンダ城』オマージュなことにあとあとで作者の気が引けたか、あるいは現実の第一次世界大戦との何らかの関係か(欧州の戦禍は、本作の中でも描かれる)、はたまた別の理由か。

 王宮内や貴族間で分裂した善人側と悪人側の対立の構図とか、国王と勘違いしながら主人公に惹かれるヒロイン(貴族の娘のプリンセス系)とのロマンスとか、献身的に主人公を助けるサブキャラクターの感涙ドラマとか、この手の作品に求められる物語要素は網羅されている一方、通例なら主人公と国王の関係が(中略)となるところ、そこはちょっと(著作当時としては)巧妙にひねってある? そこから、いったん落着した第一部の物語がまた新たなうねりで第二部に続いていく流れは、なかなか面白い。
 その意味もあって第二部の方が、物語の類型を外れた感じで楽しめた(ただしその第二部の序盤で、いかにも重要キャラっぽく出てきた某・登場人物が、実にあっけなくフェードアウトしちゃったのは「?」だったが……もしかするとアレは別の作品やシリーズからのファンサービス的な客演だったのか?)。
 
 そういえばさっき、本作は完全な非SF・非スーパーナチュラル作品と書いてそれ自体はまったくそのとおりなのだが、第二部の冒頭に本当にちらりとだけ登場する主人公バーニーの妹・アメリカ娘ヴィクトリアは、バローズの別のSF作品『石器時代から来た男』のメインヒロイン役を担当しているらしい。マトモな欧州ロマン冒険小説が明確なSF世界との接点を見せるわけで、こーゆー妙なリンク具合がなんか楽しい。さすがターザンをペルシダーに送り込んだエンターテイナーな作者だ。
 まあ考えてみれば、我が国のミステリキャラクターだって、金田一耕助が獄門島に行ったのちの事件簿でサイボーグ獣人(?)の怪獣男爵と戦ったり、神津恭介も『刺青殺人事件』ほかの謎解きを経て『悪魔の口笛』や『覆面紳士』みたいなトンデモ事件と関わったりしているわけなんだけど(笑)。

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