風の伝説 キャサリンシリーズ |
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作家 | 森詠 |
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出版日 | 1987年04月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 雪 | |
(2019/04/01 21:46登録) 元自衛隊一等空尉・北一馬はある事故を機に日本を離れ、貨物専門の"運び屋"として世界中を飛び回っていた。だがそんな生活が災いし、六年越しの恋人ウェンディに愛想を尽かされてしまう。籠抜け詐欺に引っ掛かったのをケチの付き始めに副操縦士を逮捕され、ゲリラの対空砲火を浴びて愛機〈キャサリン〉ことダコタDC3は全面修理、さらに修理を終えたキャサリンをカイロ空港で乗り逃げされ、とどめがこれだった。 一文なしの日雇いパイロットとして暮らす北だったが、マドリードの酒場"エル・ビエント"で憂さを晴らす彼の元に、キャサリンの行方を知っているという人物から連絡が入る。アーサー・ヘンティと名乗るその男はある伯爵の執事で、キャサリンの居場所を教える代わりに貴重な文化財を運んで欲しいというのだ。 最高級のホテル・リッツで北を出迎えたのは、執事アーサーと英国王立アカデミーのモーリス・ジェニングズ卿。彼は六年前に二千カラットのダイヤモンド原石"アフリカの女王"を巡る事件で知り合ったSIS責任者、ロジャー・エドウィン・スミスの推薦で、北に白羽の矢を立てたのだった。 キャサリンはパキスタン北部の要衝マルダーンで、亡命イラン人パイロット、モルタゼ・カシェフィーにより武器密売に運用されている。それを奪取した後に、タクラマカン砂漠のさる場所に飛んでほしいのだという。二週間以内にそこからある物を運び出せというのだ。 背に腹は換えられぬ北は一も二もなく依頼に応じ、現地のエージェントと接触する為マドリードからローマを経由し、パキスタンの首都カラチへと向かうが・・・ 1987年発表。「小説WOO」'87年娯楽徹底号・迎春出荷号の二回連載分に、大幅加筆訂正を加えて上梓されたもの。「さらばアフリカの女王」に続くキャサリンシリーズ二作目。イギリス正調冒険小説の香り漂う作品ですがタッチは軽めで、インディージョーンズ+ギャビン・ライアルみたいな作品。 二部構成で第一部は中国人エージェント張に、アメリカの女性考古学者ステラ・バージェットを加えてのキャサリン奪取、第二部では古代中国殷王朝と修好のあった「風の王国」遺跡での冒険と、そこから切り出したレリーフの輸送。パキスタン→アフガニスタン→中国ウイグル自治区→アフガニスタン→イランと、アジア各国の国境を行き来します。 そこそこ腕は立つもののライアル作品ほどのしぶとさや抜け目なさは無く、もっぱら操縦の腕と軽い機転だけで凌ぐ主人公。なので捻りはあまりありません。キャサリンを利用しようと乗り込んだゲリラやテロリストを博愛的に助けると、ピンチに現れたり隠れ家を提供してくれたりするという牧歌的展開。ノワール調ででろでろな船戸与一の真逆ですな。 という具合に筋運びはわりとしょうもないんですが、ダコタの操縦描写がしっかりと全編を貫いているのであまりしらけた感じはしません。たまにはこういうのもいいかな、と。こればっかりだと御免ですが。 |