殺人の代償 |
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作家 | ハリイ・ホイッティントン |
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出版日 | 2003年09月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/03/27 04:10登録) (ネタバレなし) 「私」こと、弁護士生活10年目を迎えた30男のチャールズ(チャーリー)・R・ブラウアー。チャーリーの妻コーラは吝嗇家の金持ちだった父親から50万ドルの遺産を相続した身の上で、チャーリー自身も義父の生前の後見を受けて弁護士になった経歴の主だった。そんなチャーリーは、最近雇い入れた赤みがかったブロンドの秘書ローラ・ミーティルと肉体関係を持つ。彼は、太って女としての魅力の薄れてきた妻コーラを殺害し、現状で自分の自由にならない妻の財産50万ドルを得ようと決意。表稼業の人脈まで利用しながら殺人計画を練るが……。 1958年のアメリカ作品。作者ハリイ・ホイッティントンは日本では本書以外では、ポケミスでナポレオン・ソロのノベライズが一冊翻訳されているのみ(『ナポレオン・ソロ②/最終作戦』=作者名:ハリー・ホイッティングトン表記)だが、本国ではミステリやウェスタンなどジャンルを問わず150~200冊の著作を為した職人派のペーパーバックライター。 ことに本作は、本書巻末の池上冬樹の丁寧な解説によると、1981年に双葉社の「小説アクション」誌上で当時のミステリ界の識者が<ハードボイルドオールタイムベスト10>を選出する際、片岡義男が、ケインの『郵便配達』や『倍額保険』さらにライオネル・ホワイトの『逃走と死と』、ダグラス・フェアベンの『銃撃』J・D・マクドナルドの『シンデレラの銃弾』と並んで、マイベストの一本に選んだ秀作だったという。 評者は最近になって初めて、本書が00年台になってから発掘された50年台クラシックという事実を認知。それで今回、興味が湧いて読んでみたが、結論から言うとなかなか楽しかった。 作品の中身はあらすじの通り、ハードボルドというより倒叙風のクライムストーリー。当初はそれほど本気でなかったローラとの不倫関係に主人公チャーリーがいつの間にかのめりこみ、それと同時に、かねてより感じていた妻コーラとの結婚生活の拘束感がさらに強くなっていくかのごとき流れにも説得力がある。 一方で犯罪実行後の隠蔽手段は、情報化時代の21世紀の現在ならまず不可能だろうな(というか試そうともしないだろうな)と、一瞬で無理を感じるようなおおらか(?)なものだが、50年代後半当時の米国国内の司法組織の捜査状況を覗くような感じで興味深くはあった。まあアメリカは広い国だし、当時はコンピューターも普及してなければ今のようなインターネットも無かった訳だしねえ。この辺はあんまり詳しく書けないが。 それでも極めてハイテンポにストーリーが進み、後半では、あれ? 本当ならもう起承転結の「結」でないの!? と読むこちらに思わせながら、まだまだページが50ページ前後残っている!!? と軽く驚き。この瞬間にはなかなかときめかされた。 やがて迎える終盤の意外な結末は、男性作家というよりは女流作家の<彼女>や<さらにまた彼女>たちっぽい、悪意と奇妙な情感を感じさせる。<こういう>幕切れも悪くないね。1950年代半ばの、あの有名作品の影響なんかもありそうだけど。 前述の池上氏の解説の結びでは、同時代のペーパーバックライターの雄であるジム・トンプソンと比較して、そちら並に日本でも再評価されてもいいのではと結構、推している。実際、本作くらいのレベルの未訳作品がまだあるのなら、もうちょっと紹介されたとしても歓迎したい。 |