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ミステリの祭典

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青い鷺

作家 小栗虫太郎
出版日1976年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2019/03/22 13:54登録)
虫太郎というと「黒死館」とせいぜい「白蟻」「完全犯罪」、あと「人外魔境」?となるのかもしれないが、習作を除いての長さ2位3位を収録したのが、教養文庫では本書になる。長さ第2位で法水登場の「二十世紀鉄仮面」と、長さ第3位の「青い鷺」である。両方ともパズラー色は薄いロマンティックな伝奇スリラーである。が、それぞれ持ち味が大きく違うし、他の作品とも似ていない、独自の味わいがあるので、小栗虫太郎という作家の芸域の広さを楽しむことができる。
「二十世紀鉄仮面」はとにかくスケールのデッカさが身上。九州の大財閥の後継者を巡って、事実上の支配者である瀬高十八郎を法水麟太郎が追及する話である。財閥に不利な法案の成立を阻止するために、議員住居を囲むようにペストを発生させる、ナチス・ドイツが国威をかけて建造した大旅客船を沈没させる、最後は自身が所有する工場地帯を爆破して政府と取引する等など、この瀬高という男の悪事は、ドクター・ノオもゴールドフィンガーもブロフェルドも及ばないスケールである。しかも、情味もカリスマもあって、かっこいいんだな。法水さえもこの瀬高の魅力に参ってる(オイ)。法水はというと本作ではモテモテで、計4人の女性から慕われて、そのうち一人の死を大悲恋で看取る...と、何かヅカを観ているような気分になる(苦笑)。豪華ヨットでの、ヴェルディ「オセロ」上演の舞台の上での殺人など、舞台装置も豪華。本作の良さはハッタリ満点な壮大なスケールとオペラチックで濃いキャラ&豪華セット、ということになろう。虫太郎のレビュー趣味というか、スペクタクルな好みが出ているね。これは「読むタカラヅカ」みたいなものかもよ。
「青い鷺」は法水は出ない。代わりに若い大富豪で絵を描くまねごとをしている有閑紳士、九十九弁助が主人公。そのモデルで愛人の根々と根々の叔父で三題噺の名手と呼ばれたが、高座を降りて今では幇間の恋奴朝雨が主人公グループである。彼らがユダヤ系秘密結社「民政結社(コモンウェルス)」と白人至上主義の「霊語録(サイキアナ)」との抗争に首を突っ込んでしまう話。江戸前で低徊趣味な洒脱さが身上だから、主人公弁助もはなはだお気楽極楽なキャラで、思い付きで動いて、両秘密結社の暗闘をひっかきまわすことになる。とはいえ虫太郎らしい屍蝋の話などグロ趣味は健在だし、ロンドンの魚河岸の名物男になった江戸っ子の話など、ちょいとイケるエピソードも多い。今回読み直してこの「青い鷺」の意外な面白さに感銘を受けた。虫太郎も「源内焼六術和尚」とか書いたように、江戸前な戯作趣味があるんだよね。小洒落た面白味が横溢したユーモア・スリラーといったもの。テキが秘密結社なので、真相とか今一つはっきりせずに終わるけど、お気楽だからまあいいじゃないか。

いつも、叔父が口癖のように、云っているんだけど―探偵小説ね。あれには、屁理屈ばかりが多くて、頓智がないって。三題噺の一つもできずに、作家が聴いて呆れるって。(中略)こっち(三題噺)はなにが飛んで来るかわからない、闇の礫だ。それを、一二分のあいだに、整頓して結論を引き出す。

なるほど、一理あるね(苦笑)。こういうミステリ観も斬新、かもよ。

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