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ミステリの祭典

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あなたの魂に安らぎあれ
火星三部作

作家 神林長平
出版日1983年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点
(2019/03/27 18:31登録)
 核戦争後、遠未来の火星。人類は放射能汚染を避け、地下の破沙空洞市へと避難。奉仕者アンドロイドは地上に門倉京を築き、人類以上の繁栄を謳歌していた。人類への奉仕をプログラミングされたアンドロイドからお情けの完全食を配給され、精神を病んでゆく人間たち。その一人、秋川誠元は毎夜奇妙な夢を見続けていた。川崎と呼ばれる都市で最新のレーザー銃を造り、B29の護衛機に撃墜され、〈大和〉と呼ばれる七万トンの巨艦の艦底でだれにもかえりみられず息絶える夢。
 一方、地上のアンドロイドたちも漠然とした不安を抱えていた。「エンズビルが天から下るとき、すべてが終わり、すべてが生まれる・・・・・・」破滅の予言とも祝福ともつかぬ、約束された終末・エンズビル神話の存在。彼らもまたふたつに分かたれる。エンズビルに従いすべてを受け入れる者と、プログラムに抗いすべてのくびきを破壊しようとする者とに。
 そして人間の魂司祭、サイ・玄鬼は遂にエンズビルの到来を予知し、教会を捨て門倉に向かう。そして誠元一家もまた門倉京に。約束された神の御子、聖なる輪を目覚めさせる誠元の息子・里司が門倉を訪れる時、すべてが動き出す。
 エンズビルとは果たして何か? そして人類とアンドロイドの対立の行方は?
 1983年発表の処女長編。早川書房〈新鋭書下ろしSFノヴェルズ〉の一冊。このシリーズで他に発表されたのは新井素子「絶句・・・」や、谷甲州「エリヌス―戒厳令―」、水見綾「夢魔のふる夜」など。
 登場人物たちは予知能力を持つ玄鬼や対アンドロイド組織を率いる賀夜昇など、少数以外は人間側もアンドロイドもほぼ病んだ状態。地下都市破沙の未来生活はどことなく現実感を欠き、地上の門倉京は活気に満ちてはいるものの、両者共に映画「時計仕掛けのオレンジ」を思わせるアウトサイダー達のモラルを欠いた狂宴が描かれます。
 大人だけでなく子供の中でもそうなのが「行き詰まってんなー」と。生々しくないのと、まっとうな感性も描かれるのでそれほど嫌な感じはしませんが。心理カウンセラーとして登場する島影博士が、隠れて司祭のサイ・玄鬼に救いを求めるてのがまた闇が深いです。結局みんなほぼアレだからこのタイトルなんだなと。
 ミステリとしては「火星の誠元が何故、知りもしない地球の、日本の夢を見るのか?」で引っ張っていきます。戦艦大和のビジョンはなかなか強烈ですね。ここからまた大きく繋げていきますけど。
 エンズビルの正体や提示された真相はやや唐突ですが、未来から過去に語られる変則三部作なのでしょうがないかなと。最後は大団円というか、失われた者たちと生きてゆく者たち、それぞれの明るさを見せて決着します。力を出し切って書いた、初期の代表作だと思います。

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