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ミステリの祭典

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銀の仮面

作家 ヒュー・シーモア・ウォルポール
出版日2001年11月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2019/03/17 13:42登録)
(ネタバレなし)
 ホレス・ウォルポール(『オトラント城奇譚(綺譚)』)の子孫で、日本では本書の表題作にもなっているイヤミス名作短編の作者として知られる、ヒュー・シーモア・ウォルポールの傑作短編集。
 国産ミステリの実作者としても有名な倉阪鬼一郎がウォルポールの原書短編集3冊を読み込み、その中から非スーパーナチュラル系の短編6本、幻想と怪奇、綺譚風の5本と計11編の短編を選出して翻訳した日本オリジナルの短編集。それだけ編訳者の思い入れのこもった愛情あふれる一冊だといえる。

 評者も多くのミステリファン同様に? 短編『銀の仮面』には強烈なインパクトを受けたものの、大系的にウォルポールの作品群をまとめて読んできた訳ではなかったが、このたび思い立って本書を手に取った。就眠前の時間を中心に、実動4~5日くらいで読了(一本だけの日もあれば、4本まとめて読む日もあった)。

 大半の作品が人間関係の綾というか主人公と他者との関係性から生じるストーリーなのはいかにも短編『銀の仮面』の作者らしいが、意外なのは必ずしも作品が悪意的なシニカルさを軸とするのではなく、時には優しさの行き違い、あるいはタイミングと置き場所を取り違えた思いやりの危うさ、といった切なさのようなものまで描かれること。あの『銀の仮面』の作者だから、ほぼ全部の収録作品が、藤子不二雄A先生調の泥臭いブラックユーモア路線かもしれないと覚悟していたのに。
 あと印象的なのは、随所に「読者はここでこう思うだろうが」とか「この手の小説なら従来は~」とか、メタ的な記述が自在に織り込まれること。必ずしも効果を上げてるとはいいがたい印象もあったが(倉阪訳のうまさもあって語り口は巧みでどの短編もスムーズに話に引きこまれるのに、時たまその手の記述のために、水を差されるような感を抱いた)、この辺も作者の個性だったかもしれない。
 
 以下、簡単に各話の寸評&メモ。
<第一部・非スーパーナチュラル編>
『銀の仮面』
 やはり名作。もちろん21世紀の時点で見れば、主人公が最悪の危機を脱する機会は何回かあるようなところも見受けられるが、再読してみると覚えていたより短めの作品で、それだけに勢いで最後まで読者を乗せてしまう強みも感じた。

『敵』
 これ以下は全部が初読だが、この一編で『銀の仮面』のウォルポールの印象が大きく変わった。自分の生活・人生に入り込んでくる他者という主題は『銀の仮面』と一緒だが……。ラストは深読みすれば悪意的にとれないこともないが、個人的にはあえて(後略)。

『死の恐怖』
 シニカルな話だが、どっか切ない読後感がいい味を出している。エリンの短編とかに近いかも。

『中国の馬』
 経済的な苦境から、独身の中年女性が自慢の屋敷を他人に貸す話。話の流れは読めるところもあるが、短編形式としてのストーリーテリングぶりでは本書のなかでもトップクラスか。

『ルビー色のグラス』
 男児が主人公の、幼い屈折心を描いた話。こっちはダールかスレッサーの短編とかを想起させる。仕上げが鮮やか。

『トーランド家の長老』
『銀の仮面』のウォルポールらしいイヤな話。ただしこちらは陽性のブラックユーモア感で、妙に心地よい。

<第二部・スーパーナチュラル編>
『みずうみ』
 王道的なホラーストーリー。中盤までのドラマの機軸が人間関係の摩擦なのは、とても作者らしい。

『海辺の不気味な出来事』
 本書の中で一番短い話。その割に技巧的で、ある意味でメタ的な部分もあるような。

『虎』
 英国の青年が渡米して、猛獣の幻想におびえる話。本書の中では比較的長め(といっても30ページ弱)だが、語り口のうまさを満喫。ラストはもうちょっと違った感じでも良かったかも。

『雪』
 モーリアの『レベッカ』みたいな設定で本当に……。正統派の不条理&理不尽ゴーストストーリー。良くも悪くもマトモな怪談。

『ちいさな幽霊』
 死別した友人を寂しく偲ぶ幽霊譚かと思いきや、こういう方向にまとめるとは。これはほとんど、あの(中略)の、かの名作短編。万が一、向こうの作者に影響を与えたといっても、十分に納得する内容。

 旧時代の古色を感じる話もあるけれど、読んで満足の良質な短編集。評点は、編訳者の企画力と御尽力に敬意を表して0.5点オマケ。
 巻末の千街さんの詳細で丁寧な解説(広義の意味で『銀の仮面』と世界観を共有する作品があるという情報には驚いた!)を見ると、ウォルポールには広い意味での長編ミステリも意外に多く(もちろんどれも未訳)、中にはあのJ・B・プリーストリー(『夜の来訪者』)との共作などもあるというから、面白そうなものはどんどん発掘紹介してほしい。

【2019年7月31日追記】長編ミステリは未訳と書いたけれど、2004年に一冊『暗い広場の上で』というのがポケミスから刊行されていたらしい。不覚。そのうち読んでみましょう。

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