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ミステリの祭典

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竜のグリオールに絵を描いた男
「竜のグリオール」シリーズ

作家 ルーシャス・シェパード
出版日2018年08月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点
(2019/03/21 21:46登録)
 全長6000フィート(約1.828km)、背中までの高さが750フィート(約230m)。テオシンテ市の中心部に居座るその巨大な竜は数千年前魔法使いと対決し、心臓を止められたもののその意識だけは残り、暗い霊気で周辺の住民すべてをとりこにし続ける――。
 われわれの住む世界とほんのわずかな確立の差によって隔てられた異世界。動かぬ巨竜を"舞台"にした連作ファンタジー。グリオールの体表面に真の芸術作品を描きつづけ、絵の具の毒で竜を倒すという遠大な計画の顛末を語る表題作から、竜と人との異種婚姻譚「嘘つきの館」まで全4篇収録。
 素晴らしいイラストが目を引く短編集。グリオールの鎮座するカーボネイルス・ヴァリーは銀やマホガニー、藍の産地として知られる豊かな土地ですが住民は陰気で、誰もが〈彼〉ことグリオールの視線を意識して暮らし、竜の背中部分には鱗などの副産物を加工するハングタウンという村がへばりついています。
 そのあたりの壮大さを存分に描写したのが中編「鱗狩人の美しき娘」。グリオールの意思に操られ十数年の歳月を彼の体内で過ごした女性の物語で、"かっとび"、"メタ六"、"おばけ蔓草"その他そこに暮らす寄生虫や寄生体、動植物や奇形人フィーリーたちとの生活が描かれます。宮崎駿さんには吉野源三郎やるくらいなら、正直これをアニメ化して欲しかったですね。
 次の作品「始祖の石」は「グリオールの意思に操られ殺人を犯した」と主張する男を弁護する法廷物。充実した作品の後にとらえどころのない話が来たんで少々困惑しましたが、終わってみればかなり周到なミステリでした。この作品だけでもここで取り上げる価値はあると思います。
 出来としては「鱗狩人」>「始祖の石」≧表題作>「嘘つきの館」。本当なら9点を付けたい所ですが、「嘘つきの館」があまりに身も蓋も無い結末なので8.5点。最後に〈作品に関する覚え書き〉が載っていますが、どの作品も碌な環境下で執筆されてないのが笑えます。そういえばファンタジーでありながら、全編まんべんなく「殺人」や「処刑」が絡んでますね。

 追記:グリオールシリーズは全部で7篇。未訳の「タボリン鱗」「頭骨」「美しき血」があるそうです。グリオールの内部探索を描く長編 The Grand Tour は失敗し、結局書かれませんでした。なんとか翻訳されることを望みます。

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