砂の渦 |
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作家 | ジェフリイ・ジェンキンズ |
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出版日 | 1979年04月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | |
(2019/03/08 21:47登録) (ネタバレなし) 1959年のアフリカ南西。「私」ことトロール船「エストパ号」の船長ジェフリー・マクドナルド(本名ジェフリー・ピース)はある夜、胡散臭そうな学者アルバート・スタインから仕事の相談を持ち掛けられる。それはアフリカの一定の内陸部に棲息する希少種のカブト虫を調査するため、激流に囲まれ、船の座礁の危険度も極めて高い遠浅の海岸「骸骨海岸」へスタイン当人を搬送する依頼だった。だが骸骨海岸とその向こうの広大な砂州「クルバ・ドス・ドゥナス(砂の渦)」こそ、ジェフリーの祖父で旧世代の海の男だったサイモンが私有地(遺産)として孫に遺した、とある秘宝の眠る辺境の英国領だった。そしてその地は、かつて第二次大戦中、英国海軍の潜水艦艦長だったジェフリーにとっても深い因縁の戦場であった。骸骨海岸周辺の危険さを知るジェフリーはスタインの依頼を断るが、そんな彼を予期せぬ事態が待っていた。 1959年のイギリス作品。作者ジェキンズは1970年代の半ばから80年代にかけて日本でも何作か長編が紹介された冒険小説作家。ハモンド・イネス系列の正統自然派冒険小説の流れを汲みながら、当人が南アフリカ連邦で生を受けたこともあって、アフリカを舞台にした作品が多いのが特徴だった。 とはいえ評者なんかは日本に初紹介の長編『ハンター・キラー』(これもアフリカが舞台の潜水艦小説)を読んで普通に面白いな、と思ったものの、<その著作の大方が、読めば一定の満足度を得られるであろう、安定感のある英国冒険小説作家>という感じで心の中の棚に上げておいて、何冊か購入したハズの本も例によってツンドクのままだった(汗)。 それで少し前に本当に久方に気が向いて、ジェンキンズの処女長編である本作を手に取った。今回、評者の興味を強く推したのは、邦訳書(パシフィカ版。作者名ジェフリー・ジェンキンズ表記)の裏表紙にも引用されている、かのイアン・フレミングの生前の賛辞「高級で創造的な冒険者たちの伝統の中から生まれたはじめてと言って良いほど洗練された想像力にあふれた作品だ」(サンデイ・タイムズ)である。……なんか無茶苦茶褒めてるじゃないの? ホントなの!? という感じであった。 そういう流れで読み始めたこの一冊だが…いや、これは、確かに面白かった。 アフリカ陸海の過酷かつ多様な自然をイネス風の立体感ある筆致で書きこみながら、一方で物語の中盤から主人公ジェフリー・ピースの大戦中のドラマチックな秘話にも迫る。そしてそこで語られたある印象的な出来事(結構ケレン味豊かなネタが出てきてビックリ!)、さらに祖父のサイモンが遺した秘宝? の謎と、複数の物語の要素を現在形の冒険ドラマの中に巧みに組み込みながらストーリーを進めていく(中盤から登場する、過去のある学者ヒロイン、アンネ・ニールセンのキャラクターもいい)。 そんなもろもろの小説要素を鮮やかに束ねた後半の展開は、実に見事な燃焼感と独特な情感を評者に抱かせた(あまり詳しく書くとネタバレになるので控えるけれど)。 特に、後半の秘境冒険小説的なイベントの連続を経た終盤のサプライズは、ああ、ここでこう話がリンクするのか! とハタと膝を打った。 読んで良かった優秀作。 ちなみにフレミングが『ダイヤモンドは永遠に』を著したのは56年で本作の数年前だから、当人にとってアフリカのダイヤ採掘という小説的主題(本作にも少しダイヤ採掘の件は物語の要素として出てくる)は本書刊行の時点では過去のものだったろうけれど、後進の作家が自分の作品と接点のある題材で、勢いのある新規の物語を紡いだのが相応に嬉しかったのではないか。先に紹介した賛辞をとりあえず素直に受け取りながら、評者は勝手にそんなことを考えたりしている。 そのうちまた、ジェンキンズ読もう。自分にとって、良い意味で第二のイネスみたいなポジションになってくれればいいなあ。 |