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ミステリの祭典

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断片のアリス

作家 伽古屋圭市
出版日2018年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/03/07 19:29登録)
 西暦2130年前後。人類は、地球全体を襲ったかつての大災害のために総人口の大半を失っていた。寒冷化した地球全土で暮らす人々は「アリス」と呼ばれる仮想世界を構築し、もうひとつの現実としてその中でも生活する。今では多くの人間が現実ではなく、そのアリスの中で就業して収入を得るほどだった。そんなある日、「わたし」=「ハル」こと椎葉羽留は何者かの意志によってそのアリスの通常世界と途絶された、別の電脳クラスタに放り込まれ、そこでピノッキオ風のパペットのようなアバターを与えられる。ハルは同じような立場の男女たちと出会い、ともに、謎の意志が提示するクエストに向かっていくが、そんな彼らの中で<連続殺人>が発生。仲間がひとりひとりと消えていく。

 持ち芸の幅の広さを誇る作者の、今回はSF設定のフーダニット。<謎の意志によって集結させられた見知らぬ者たち>という『そして誰もいなくなった』を思わせる、クローズドサークルものの変種といえるシチュエーションが用意されている。
 特に作中人物が次のステージに移行する時は仲間の誰かが死ぬときというシステムが謎の意志によって設けられ、そのために登場人物は、お互いが現状を打開するために誰かを殺そうという殺意を秘めているのでは? という疑心暗鬼にも駆られる。この辺のサスペンスの盛り上げはなかなか効果的だ。

 特殊な設定ながら、フーダニットのミステリとしては存外に普通の作りで、ことさら本作ならではのSF設定は謎解きにはからんでこない。通例の現実の現代を舞台にした謎解き作品でもありそうな手がかりと伏線から、真犯人は導き出される。その辺は謎解き作品として手堅いともいえるし、意外にフツーだなという感覚もなくもない。
 ただし本作のさらなる価値は、終盤のもうひとつの意外性にあるだろう。決して斬新なものではないネタだろうが、物語との親和性は非常に高く、独特の結晶感を感じた。深い余韻に包まれながらページを閉じることができる一冊で、佳作~秀作。

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