証拠 競馬シリーズ |
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作家 | ディック・フランシス |
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出版日 | 1985年12月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 雪 | |
(2019/04/24 01:21登録) ワイン専門店経営者トニイ・ビーチは、得意先の調教師ジャック・ホーソーンが催すお祝いパーティーの手配を依頼された。競馬シーズン終了後、例年十月に野外の大テントで行なわれる、馬主たちを招いた華やかなイベント。その当日、トニイがシャンパンを取りにテントを離れヴァンに向かった時、それは起こった。 会場から離れた丘の上に止まっていた馬匹運搬車が突然動き出し、大テントに突っ込んだのだ。招待されていたアラブのシークほか死者八名、負傷者多数。 凄惨な現場からホーソーン夫妻を始め数人を助け出したトニイだったが、翌日彼の店にテムズ・ヴァリイ警察署のリジャー部長刑事が現れる。事故のことではなく、別件で協力して欲しいというのだ。事故直前にジャックの秘書のジミイに相談された、リーディング近くの酒場シルヴァ・ムーンダンスでラベルと異なる中身の酒が出された件についてだった。他にも何件かの苦情が寄せられている店で、先の事故で亡くなったラリイ・トレントに代わる支配人が決まらないうちに、非公式の専門家としてウイスキイの利き酒をしてもらいたいという。 調査の結果、ベルズとラフロイグが偽物と分かり店は閉鎖された。またトニイが好奇心で行なったワインの利き酒も、赤の十二本は偽物。トニイはリジャーに掛け合い、全ての赤ワインを持ち帰る。 それからまもなく、また新たな事件が起こる。営業停止中のシルヴァ・ムーンダンスに残る酒類全てが持ち去られたのだ。本社の男と名乗って現れたポール・ヤングと連絡を取ろうとするも、メモの住所も電話番号も存在しないという。そして店の支配人室には、首から上を包帯と石膏でラグビーボールのように固められたワイン・ウェイターの死体が転がっていた・・・ 1984年発表。「奪回」に続くシリーズ第23作。冒頭にショッキングな展開が連続しますが、主人公が暴力を躊躇う性格付けのせいか、パブの女傑店主ミセズ・アレクシスなど魅力的な人物も登場するものの小粒な仕上がり。ただし、シリーズ全体の流れを見る際には指標となる作品。 警察に協力した主人公ですが、一方事故現場で出会った探偵社幹部ジェラード・マグレガーにも資質を見込まれ、タンク・ローリイから連続して中身のスコッチが盗まれた事件も併せて追うことに。もちろん両者は関連しているのですが。 主人公は二代続けて受勲者を輩出した軍人一家の「不肖の息子」。期待されて育ったものの「どうして自分には父のような勇気がないのだろう」と思い悩む日々。暴力を嫌い、フランシス主人公の通例である馬の騎乗にも興味を持ちません。 六カ月前理解者の愛妻も亡くし機械的に店を営んでいたトニイですが、そんな彼が自分なりの勇気と回答を見出すのが本書。第17作「試走」から続くマンネリ打破の取り組みも一応終わり、キット・フィールディング登場の次作「侵入」から第32作「決着」まで、コンスタントに良作が続きます。円熟期の始まりを告げる作品と言えるでしょう。 追記:tider-tigerさんへ 本作以降のフランシスは「告解」までほぼ佳作か佳作未満で、この時期の私的ツートップは「黄金」か「標的」。次点は「直線」「帰還」「密輸」「決着」のいずれかになるでしょうか。たぶん「帰還」かな。この辺りは迷いも無く落ち着いた筆致で描かれており、いずれも安心して読めると思います。 「大穴」は図書館から届いたものを現在読破中。既読作品も貯まっててすぐにとは行きませんが、順を追って必ず書評します。 では、また。 |