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ミステリの祭典

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赤猫
片倉康孝警部補/改題『赤猫: 刑事・片倉康孝 只見線殺人事件』

作家 柴田哲孝
出版日2018年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/03/02 19:28登録)
(ネタバレなし)
 1996年12月。練馬区で大火事が発生し、現場から71歳の男性・井苅忠次の焼死体が発見された。井苅の死は放火殺人によるものと判明し、さらに現場から、彼の年の離れた妻・鮎子を名乗る女性が行方をくらましていた。鮎子に嫌疑がかかるが、捜査は事実上の迷宮入りとなる。そして20年の時が経ち、同件を担当した今は退職直前の石神井署のベテラン刑事・片倉康孝警部補は、改めて現在の視点から、この事件に取り組むが。

 石神井警察署・片倉康孝警部補シリーズの第三弾。今回は秀作だった第1作『黄昏の光と影』の路線に戻り、またも数十年単位で昭和史を縦断するダイナミズムを披露してくれる。その意味では水準以上の求心力があってとても結構なのだが、そういったタイプの作品ゆえに登場人物の総数も名前が出てくる者だけで60人前後にも及び、物語の錯綜ぶりもハンパではない。『黄昏』はその辺りはもう少しうまく流れを捌いていたと思うし、実際の昭和史とのリンクも鮮やか、何より最後のどんでん返しも決まっていた。今回は同じラインを狙ったのはいいが、いろんな意味で先行編の縮小再生産&消化不良に陥ってしまった感じがある(細部がきっちり明かされない、舌っ足らずな部分も少なくない)。あと結局、作品の中盤で若手刑事の須賀沼が指摘した(中略)の件って、なんの意味も無かったんだよね?
 本編そのものには勢いがあって読ませたけれど、最終的な完成度と新味においてはいまひとつふたつ、というところ。ミステリ的な最後の決着もアレだし。

 片倉と智子さんの復縁関係が一歩下がって二歩進む叙述と、普段は片倉と不仲な今井課長の意外な前向きぶりは良かった(その分今回は、相棒の柳井がいつもより脇に回っちゃった感じもあるが)。

 本シリーズは構想にも取材にも、かなり書き手のエネルギーを必要とするものとは思うが、クリーンヒットすればかなりの傑作ができる可能性は見やるので、今後も読んでいきたい。 

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