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ミステリの祭典

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キラー・エリート
マイク・ロッケン

作家 ロバート・ロスタンド
出版日1976年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/02/22 21:03登録)
(ネタバレなし)
 政治亡命者の受け入れ・護衛などを任務とする英国政府の諜報工作機関SYOPS。七ヶ月前のある夜、同部署の33歳の青年マイク・ロッケンは、経験の浅い若い同僚エディとともに、チェコからの老亡命者ヴロドニーを護送する任務に就いていた。だが「ハンセン」と名乗るガンマンが警備の隙をついて亡命者と同僚を殺し、ロッケンの左膝と睾丸にも銃弾を見舞った。九死に一生を得て男性機能もどうにか守ったロッケンは、その後現在まで過酷なリハビリを自らに課し、杖を用いての日常生活なら可能なまでに回復したが、前線への復帰は半ば諦めていた。そんな彼の元に、上司であるSYOPSのヨーロッパ地区局長キャップ・コリスから、南米の小国ブワンダから亡命中の元大統領モーゼス・ニオカを護送する任務の打診がある。ニオカを狙う三人の主力の大物テロリスト、その中の一人はロッケンの仇敵、プロの暗殺者であるリカルド・ハンセンだった。復讐の念を燃えあがらせてこの任務を受けるロッケンだが、英国政府のある思惑から、SYOPSの支援はとぼしかった。ロッケンは、凄腕だが高齢のドライバー、パトリック・マッキニー(マック)、そしてコリスが斡旋した若手部員ジェローム・ミラーの3名のみでチームを組み、この困難なミッションに臨むが。

 1973年のイギリス作品。サム・ペキンパーの映画版(1975年作品)が日本で公開されたのに合わせて、邦訳紹介された。
(ちなみに同じ邦題の21世紀の映画、そしてその原作である小説とは全くの別ものなので、注意されたし。)
 
 ニオカ元大統領の警備に際して、英国政府がSYOPSとコリス、ロッケンに対し、人員や体制をまともに準備できないのは、しょっぱなからこの標的が助かる確率が低そうだ、でもそこまで本腰を入れて金や人員を掛けて守るほどの人物でもないな(今風にいうなら、対費用効果に合わない)、というような冷徹な計算があり、政府的には、SYOPSが限られた枠内で要人を守ってくれるならそれはそれでよし、くらいに考えている。こういうグレイゾーンの事態も現実にありそうで、主人公が逆境を強いられるこの辺の設定には妙なリアリティが感じられた。
 そんなわけで、脆弱な味方、強大な敵、というアクションスリラーの王道的な設定にはイクスキューズがはかられた。そのあとの二転三転する展開もなかなか良く出来ている。ニカド元大統領とその気の強い娘フェミを護送してロッケンたち三人が目的地に向かうあたりは、訳者自身もあとがきで語っている通り『深夜プラス1』を思わせる展開でありテンションである。その意味で普通には面白い。終盤の映画的な決着もなかなか心に残る(実際のペキンパーの映画版はまだ未見なので、どうなってるか知らないが)。

 ただ不満もいくつかあって、一番気になったのは、あまりにもこの手の作品のセオリーというか、物語のフォーマット的な流れに倣いすぎていること。そしてあまり詳しくは書けないが、読者(この場合、自分だが)の頭に浮かんだあるポイントへの疑問がうまいことミスディレクションに誘導されず、終盤でああ、やっぱり、という着地点に収まってしまうこと。仕掛けそのものは少なくないのだが、そのある部分においては、読み手をうまく丸め込む目くらましの工夫などが欲しかった気はする。
 それと本作は全編が三人称なのだが、叙述の視点的には最初から最後まで本当に一貫して主人公ロッケンから離れない。これだったら、復讐の念と怒り、さらにロッケンの心に芽生える種々の葛藤も踏まえて、書くべきところはみっちり内面を書きこみ、どうでもいいところやあえて見せない部分は適当に流す、そんなロッケンの一人称で語った方が良かったんじゃないか……とつくづく思った。(この辺は、周辺の編集などでアドバイスしてくれる人はいなかったのだろうか。)

 ちなみにマイク・ロッケンの主役編は続編が書かれて、シリーズ化もされたらしい。作者ロスタンドの作品は日本では本書しか翻訳されてないので、当然ながら続刊は未紹介だが。続編の向こうでの評判はどうだったのか、ちょっと気になる。

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