殺しの接吻 |
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作家 | ウィリアム・ゴールドマン |
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出版日 | 2004年06月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2019/02/17 22:10登録) (ネタバレなし) 一人暮らしの成人女性を次々と殺害し、被害者の額に口紅で悪趣味なキスマークをつけていく謎の連続殺人鬼がマンハッタンに出没する。事件を追うのはユダヤ系で34歳の独身モーリス(モー)・A・ブランメル刑事。少年時代に顔に火傷を負い、口さがない母親フローラからは、外科医として成功した兄フランクリンと何かと比較されて劣等感を抱いている男だ。そんなモーリスのもとに、自ら殺人者を名乗る男性から電話がかかってくる。相手は犯人しか知り得ない情報を語り、モーとの絆を求めた。それでも犯人の正体も不明でさらに凶行が続くなか、モーリスは眼鏡の若い女性セアラ・ストーンと親しくなるが……。 1964年のアメリカ作品。ロッド・タイガー主演の同題の映画は日本のミステリファンにもカルト的な人気のようだが、評者は未見(汗)。 ただしゴールドマンファンで熱い情熱を込めた解説を書いている作家の瀬名秀明氏によると、映画は小説を大幅に改変というか逸脱、ゴールドマン自身も映画の出来に不服で、瀬名氏の評も<映画も良いが、原作の方がさらに素晴らしい>ということらしい。 そういうわけで本書は単品のミステリとしても普通に楽しめるだろうと期待して手に取った。が、う……ん、小説の作り方がいかにも映画のシナリオ的に見せ場を放りこんでその場面場面のテンションは盛り上げて、あとはそれぞれのシーンの連続性を読者の感性に委ねた感じ。要するに散漫で、ベクトル感がもうちょっと欲しい。ただし工夫している点もあり、各シーンの被害者の最期を途中からきっちり書かず、報道記事の転載でその顛末や細かい情報を語る省略法の見せ方など効果を上げている。 それで瀬名氏が激賞の、映画には反映されなかった小説独自のラストだけど、こっちは狙いは分かるものの小説としての書き込みがさらに大雑把で、盛り上げる演出に失敗した感じが強い。 この時点でゴールドマンの小説作品は5冊目だったというが、先述した前半からの不満も含めてまだまだ習作時代の一冊という印象も受けた。少なくとも本書の10年後の『マラソン・マン』はその点ではちゃんとしっかりした小説になっている。もうちょっと狙いを際だって活かせたなら、ニーリィの秀作みたいな感じになったかもしれないのだが。 (ただし映画を観てからまた再読したら、小説独自の良い面がそこで改めて見えてきて印象が変わる可能性もあるかもしれない。そんな一抹の希望を偲ばせる作品ではあるが。) |