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ミステリの祭典

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黒い墜落機(ファントム)

作家 森村誠一
出版日1976年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/02/16 16:44登録)
(ネタバレなし)
 昭和五十×年二月十×日。その夜、自衛隊の最新鋭戦闘機F-4FJ・機体番号416号機が日本アルプスの山中に墜落した。周辺には、平家の落人伝説が残るものの今は過疎化した山村「風巣(ふうす)」があり、当夜は13人の土地の老人、現地の民宿を手伝う訳ありの若夫婦、そして物好きといえる男女5人の宿泊客が集っていた。実は、墜落した416号機には自衛隊の存亡を揺るがすほどの重要機密が秘められており、墜落事実の隠蔽を図る自衛隊の特殊レインジャー「サルビア部隊」は風巣にいる老若男女20人全員の口封じを図るが……。

 元版は1976年2月に光文社のカッパ・ノベルスから刊行。
 一言で言えば、バグリイの傑作冒険小説『高い砦』の森村誠一版。
 敵側の設定は70年代左翼の森村が自衛隊の暗部をひたすら強調し、徹底的に悪役(と相応に道化)に書いた感じで、まあいかにもこの人っぽい。それで先駆作の『高い砦』では、窮地に立った面々の中からぶっとんだ反撃案が提示・実行されて作品の評価を高めたが、本作ではそれに代るものとして、死の危機に立たされた主人公たちに(中略)という逆転手段が用意されている。

 ネタバレを警戒しながらできるだけ曖昧に書くけれど、元版のカッパ・ノベルス刊行時に確か当時の「幻影城」のレビューでその辺を「あまりにリアリティがない」とか「ご都合主義」だ? とかなんとかの主旨でクサしていた記憶がある。要はそういう設定というか文芸である。
 いや、ソレは確かにくだんの書評氏の憤慨もわかるな、と思う一方、同時になんかちょっと、良く言えば少年マンガ的に面白そうな趣向に思えるものだった。それでそれからウン十年、いつか読んでやれと思いながらようやっとこのたび手にしたワケである(笑)。

 まあそういった本作独自の趣向を踏まえた主人公側の反撃&サバイバルは「あー」と呆れる面もあれば、おや、なかなか面白い球の放り方をしている!? と感心したりとか、感慨はこもごもであった。
 ただまあ全体としては『高い砦』の格調には到底及ばない、B級の山岳生き残りスリラー。さらにイデオロギー面では作者のルサンチマン蔓延の一冊という感じである。つまらなくはないけれど、森村作品に随時感じる、いかにも偽悪的、厨二的な感覚も何つーか……であった。終盤の事態が決着したのちの、運命の神を気どるかのような作者の筆使いもいやらしい。
ただしラストは「あー、そういうクロージングで来るか」と、印象的ながらどっかのんきな感触であった。この部分に限っては、キライじゃないかも。

 6点にしてもいいけれど、種々の減点要素にこだわって、この評点。

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