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ミステリの祭典

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海鰻荘奇談 香山滋傑作選

作家 香山滋
出版日2017年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2019/02/12 20:43登録)
第一回探偵作家クラブ賞(新人賞)受賞の名作を含む、現在新本で手に入る河出文庫の傑作選である。香山滋だと代名詞的作品である「オラン・ペンデク」も「海鰻荘」も、連作した後日譚にあたる兄弟作を一緒に収録しているあたりがウリである。
本来「ロスト・ワールド」とかハガードの秘境冒険小説が最初のネタなんだけども、国枝史郎や小栗虫太郎らの手で戦前の日本で独特の進化を遂げた、日本版の「秘境ロマン」の最後の後継者になったのが、この香山滋である。
そもそも日本では、秘境は征服「する」ものではなくて、秘境に征服「される」ものなのだ。その謎に挑むものは、秘境の怪異な美に囚われて恍惚のうちに秘境に飲み込まれていく...その美と法悦を描く方向に、日本の秘境冒険小説は逸走していった。言ってみれば、ラヴクラフトと同質の「怪異への恐怖×愛」が、日常の外側・日本の外側への脱出への夢として、昏く紡がれていったわけなんだね。戦前のミステリはというと、乱歩自身もこういう志向がかなりあったから。探偵作家クラブ賞でもそう違和感もなく香山作品がすんなり受け入れられたわけだ。
しかし、このような昏い夢は戦後の復興とともに、雲散霧消してしまったようだ。この傑作選でも1940年代の作品は、実にいい。が50年代の作が2作収録しているが、何か手慣れてしまって熱がない。小説としては明らかに言葉足らずな処女作「オラン・ペンデクの復讐」が、妙な熱気で読ませるのとは対照的である。
で代名詞的名作「海鰻荘奇談」である。
―にくい?―
―にくい!―
―ころす?―
―ころす!―
―いつ?―
―こんや!―
ささやき声で交わされる老博士と、不義の子の美少女との会話(ひらがながエロい)、新婚の愛を象った大プールも、裏切られた愛によって醜いウツボが群がる地獄の池に...そして骨だけがはいった皮袋のような奇怪な死体。と香山ロマンの頂点の大名作である。愛の法悦がそのまま地獄と化す怪奇美の世界をご堪能あれ。

香山滋の後で、この世界を継承できたのは諸星大二郎だけだと思うんだよ。「海鰻荘」モロ☆先生漫画化しないかなあ!

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