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ミステリの祭典

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泥棒はスプーンを数える
泥棒バーニィ

作家 ローレンス・ブロック
出版日2018年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2019/02/08 23:49登録)
泥棒バーニイ・ローデンバーシリーズも本書が最終作だそうだ。“だそうだ”というのはブロックはこれまでも最終作と思しき作品を著しながら、思い出したように続編を書くからだ。しかし御年80歳であることを考えるとさすがにこの謳い文句は本当のように思える。

今回の話はとにかくいつもとは異なる。軸となるストーリーはあるものの、そこに至るまでがいつもより長く、余分なエピソードや蘊蓄の量がかなり割り増しされているのだ。
軸となる話とはミスター・スミスなる謎の人物からフィッツジェラルドの『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の生原稿、そしてアメリカ独立宣言の署名者の1人バトン・グインネットを象徴したボタンの意匠を施した使途スプーンの所有者からの盗みと並行してレイ・カーシュマンが担当する泥棒による富豪の老婦人殺害事件の捜査の手伝いだ。
実際本筋のバーニイが謎の人物ミスター・スミスから依頼された最初の盗みを始めるのが80ページ目辺り。そしてお馴染みの宿敵、刑事のレイ・カーシュマンがバーニイに疑いを掛けた泥棒による老婦人殺人事件を持ち掛けるのが120ページ目辺り。更に本書の題名となっている使途スプーンを盗む計画が動き出すのは190ページ目辺りと、実にとびとびに物語は展開する。そしてこれら約4~70ページの間隙で語られるのはバーニイの女友達で時々盗みのパートナーを務めるペット美容師のキャロリンと繰り広げる多数の蘊蓄とエピソードで彩られた、あっちこっちに脱線する会話なのだ。それらは時に冗長に感じられながら、ブロックお得意の会話の妙味が込められていて面白いのは事実。

さてそんな蘊蓄と脱線で彩られたシリーズ最終作。中身はそれでも本格ミステリばりの内容となっている。
これら事件の謎解きをバーニイは自分の店で関係者一同集めて、さながら昔の本格ミステリのように行う。その前にレックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズを読み直して、どういう風に進めればいいのかを参考にするのが面白い。

また昨今の書店経営事情の困難さを象徴するかのように本書が幕を開けることにも触れておきたい。
最初の客がバーニイの店でタイトルが解らないけれども、ずっと探していた本を見つける。恰も購入しそうにレジに来るが、タイトルをアマゾンで調べると電子書籍化されてて、そちらの方が13ドルも安く手に入るので止めることにしたと云って出て行く。
また常連のモーグリという男性は大量に本を買ってくれるが、彼はその本を手元に置いておきたいわけでなく、自身がウェブで売るためのせどりをしていることをバーニイは知っている。常連客の1人が亡くなり、その蔵書を売りたいという連絡を受けて家に云ったら、息子が1冊ずつネットで売ることにしたので止めたと断られた。
ネットの繁栄が実店舗の書店・古書店へもたらす不景気の煽りをバーニイの経営するバーネガット古書店にも訪れていることが描かれている。これが今の書店業界の現実なのだ。

本書はブロック75歳の時の作品。引導を渡すには頃合いだったのだろう。また1つ私が愛読してきたシリーズが終わってしまった。哀しいけれど何事も引き際が肝心で、むしろこれほどのクオリティを保って幕を閉じることが有終の美というものだ。つまり本書における数多くの蘊蓄や寄り道はブロックの内なる書きたいことを最大限に放出したことに他ならない。彼の中にある興味あること、書きたいこと、教えたいことを極力多く入れたかったのだ。老人が若者に酒を片手に蘊蓄を傾けるかのように、古きアメリカの歴史や昨今の出版事情などを聴くが如く、読むのが本書の正しい読み方だ。

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