吸血鬼ドラキュラ 別題『魔人ドラキュラ』『ドラキュラ』 |
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作家 | ブラム・ストーカー |
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出版日 | 1956年01月 |
平均点 | 9.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 9点 | クリスティ再読 | |
(2019/02/05 21:06登録) 世紀末ロンドンの闇を闊歩する二大巨頭は...というと一人は言うまでもなくホームズだが、もう一人はドラキュラ伯爵に決っているでしょう。代名詞になるような強烈な影響を、その後のエンタメに刻印したという面で、ここが「ミステリの祭典」だろうとも、見逃すわけにはいかない。 しかもね、本作は実際の内容も、かなりミステリに近いものがある...というか、後半はヘルシング教授率いるハンターたちが、ドラキュラを追跡し追い詰める「マンハント」のお手本みたいな作品である。ドラキュラはモンスターの帝王だが、周知のような弱点も多いわけで、その弱点をヘルシング教授たちは「合理的」に突き、「時代遅れの怪異」を理性によって鎮めるわけである。構図はミステリそのものじゃないのかしら? で本作は登場人物たちの日記、手記、記録文書、新聞記事などの集合体で成り立っているのだが、この形式もコリンズの「月長石」にヒントを得て...だそうだ。本作の場合、この形式が一種の「メディア小説」みたいな格好になっているのが非常に面白い。セワード医師なんて蝋管レコードに口述で日記をつけるし、ミナの特技はタイプ打ちだったりする。だからドラキュラに記録を破壊されても、ちゃんとコピーがあるわけだ。でこのような「メディア」性が、最終盤でドラキュラの影響下にあるミナを巡って、探知と逆探知が交錯するような「メディア戦」をヘルシング一行とドラキュラが戦うことになる。19世紀とはとても思えない、実にモダンな発想をしているのだ! なので、本作はニアミス、というよりも「ほぼミス」と見ていいと評者は思うんだよ。必読の名作であり、少しも古びない大古典である。 |