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ミステリの祭典

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燃える水

作家 河合莞爾
出版日2018年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/02/02 01:03登録)
(ネタバレなし)
 アジア系企業の参入によって、手酷い損益を出した大企業・王島電機は大規模なリストラを敢行した。名ばかりの役職・係長補佐として日々の碌をはんでいた40歳の庶務課社員・平原晴弘は会社を追われるが、10歳年下の愛妻・春陽(はるひ)の応援のもと、中堅の電機メーカー「ソルケィア」の人事スタッフの正社員として再就職が叶った。だが社長の花園大蔵から受けた最初の大きな仕事は、先の自分と同様にリストラ勧告を受けている男女3人の社員を円満に退社させること。当該の社員たちと会社の意向を何とか折り合わせようと苦慮する平原。だがそんな彼はそのさなか、先に自宅で頓死した社員・曾根直人と、くだんの3人の面々とがそれぞれ個々に関係があることに気付く。

 題名と序盤のプロローグからネタを割っているのでコレは書いてもいいだろうが、本作の大きなモチーフの一つは、ある条件下で発火する(普通の)水。世界中のエネルギー問題を根底からひっくり返す技術革命という主題を、当初は読者視線の遠景に置きながら、眼前のドラマはリストラサラリーマン・平原の再就職をめぐる悲喜劇にカメラの焦点を合わせていく。
 どこで物語が交わりどのような方向にストーリーが流れるのかが見えにくい分、あまり言葉を費やせない種類の作品。個人的には、最終的にどういうジャンルに落着するかという点まで含めて、とても面白かった。平明な文章が読みやすすぎて重みがないともいえるが、中身の方の密度感はしっかりある。
 ジャンルの分類は迷ったけれど、社会派ということで。決して声高に社会悪や世の中の不正を糾弾する内容じゃないけれどね、物語の基盤となる現実のある種のいびつさへの批判は大事な要素となっている。さらに(中略)でもあり、(中略)でもある、ジャンル越境作品。クロージングの気持ち良さも出色。

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