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ミステリの祭典

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聖者が街にやって来た

作家 宇佐美まこと
出版日2018年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/01/23 14:24登録)
(ネタバレなし)
 神奈川県の多摩川市。そこでは市民の結束と交流を題目にした、市主催のオリジナルストーリーのミュージカル劇「聖者が街にやって来た」が演じられることになる。名だたる演劇関係者が招聘されて企画が進む中、歓楽街に店舗を構える「フラワーショップ小谷」の一人娘で高校の演劇部に所属する小谷菫子(とうこ)は、そのミュージカルの準主演に選抜された。だが同じ頃、市の周囲では不審な死亡事件が続発。そしてその死体の周囲には常に何かの花弁が残されていた。
 
 作者・宇佐美まことはすでに十年以上もミステリ、ホラー分野で活躍。2017年には長編『愚者の毒』で日本推理作家協会賞も受賞しているバリバリの一線作家だが、どういうわけか本サイトではあまり読まれていないようである(といいつつ評者自身も、宇佐美作品を読むのは、本書でまだ二冊目なのだが~汗~)。
 神奈川県の架空の都市・多摩川市を舞台に、少女ヒロインの菫子のみならず、その母親で未亡人の桜子、彼女たち母子の周辺人物、さらに……と、多様な主要キャラの動向をほぼ並列的に語ってていく作劇。青春ストーリーから心に傷を負った大人たちの過去ドラマ、ヤバそうな事件の匂い、と話のネタはいっぱい。それをほぼ一定のテンションでだれることなく読ませていく筆力は、安定感がある。
 ミステリ的にはミッシングリンクの大ネタがキモの一つなんだろうけれど、結構あからさまに正直に、かねてより布石的な叙述を設けているので、あんまし真相にインパクトはない。最後の意外な犯人も、物語の流れからして読者に推理させる種類のものではないし、さらに重要キャラのその人が終盤の手前頃にいくぶん描写の比重が軽くなるので、あーこれは逆説的に、クライマックスでこの人が大役(つまり犯人役)を授かるのだな、と予見させてしまう。
 仕掛けの数はそれなりに多いんだけど、全体的に直球で正直すぎる感じ。

 ただまあ、自分で前にちょっとだけ読んだものも含めて、宇佐美作品ってもっと際どくてエグい感じかとも思っていたので、意外に本作はやさしい、猥雑なキナ臭さの中にもヒューマンドラマ的な味付けがあるのは悪くなかった。
 一冊の読み物ミステリとして、費やした時間分は普通に楽しめる佳作。

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