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ミステリの祭典

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絵里奈の消滅
私立探偵・鬼束啓一郎/改題『名もなき少女に墓碑銘を』

作家 香納諒一
出版日2018年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/01/17 16:36登録)
(ネタバレなし)
 「私」こと元刑事の私立探偵・鬼束啓一郎は、自分がかつて警察時代に逮捕した元・窃盗犯の「牛ヤス」こと牛沼康男から連絡を受ける。だが牛沼は相談の仔細を語らないうちに、河川で死体で見つかった。牛沼の周囲を探った鬼束は、彼が自分の娘「絵里奈」の行方を探してほしかったのだと認め、故人のために調査を始める。だが関係者の証言や遺品から事件は膨らみ、鬼束の前には予想外の真実が露わになっていく。

 2018年の新作で、作者の2010年の作品『熱愛』の主人公・鬼束啓一郎が8年振りに復活した長編。とはいえ評者は香納作品は初読である。ネットでの評判をどっかで見て良さげだと思って手にした一冊だが、実は本作がシリーズものということを、劇中のそれらしい描写で初めて察し、改めてwebで確認した。

 結論から言うと、予想以上に良い意味で昭和の国産ハードボイルド私立探偵小説臭を感じる作品でかなり面白かった。登場人物の描き分けも明快な一方、余計な脇役までに過剰な叙述を設けない筆致もリーダビリティが高い。その一方で主人公・鬼束のワイズクラックや皮肉、内省も巧妙なテンポで随所に織り込まれ、一人称私立探偵小説としての形質的にも申し分ない。
 まあ鬼束が実質的に無償で調査を進めたり、有益な協力者がめっぽう多いあたりの描写は、気になる人は気になるかもしれないが、前者は頼み事を置いていってしまった死者との関係にきちんとケジメをつけておきたい当人のキャラクタ-だろうし、後者は探偵としての人となりを含めた人脈&機動力の発露である。個人的にはおおむねオッケー。

 事件の中心となる当該の人々の関係図がややっこしい面もないではないが、ロスマクのガチガチの親の因果が子に報いもの辺りにくらべれば、まだマシであろう。できれば登場人物のメモを作った方がいいかもしれないが。
 終盤、鬼束とある登場人物との対峙のなかで、ああ、本作はこれが言いたかった、やりたかったんだろうな、というのが明確に見えてくるのは好感を抱く(ミステリとしての謎の真相の方ではなく)。
 ジャンル作品としては古式でかなり直球な主題かもしれないが、私的には、21世紀の今もちゃんとこういうメッセージを放ってくれる作者と作品があることにちょっとホッとする。
 そのウチ『熱愛』も読んでみます。かなり評判いいみたいだし。

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