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ミステリの祭典

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沙漠の古都

作家 国枝史郎
出版日1969年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2019/01/11 06:29登録)
何というか、面妖な小説である。本当に行き当たりばったりで、作者に鼻面掴まれて引き回わされるような読書体験を味わった(苦笑)。最初はマドリッドの「民間探偵」レザールが「燐光を放つ怪獣」の出没を調査することろから始まる。「バスカヴィル家の犬」だ。その先輩に当たる探偵ラシイヌとの探偵合戦みたいな趣向があるのだが、怪獣の正体は動物園長の着ぐるみであることが判明する....がそれは、マドリッド市長が「支那新疆の羅布(ロブ)の沙漠」に住む回鶻(ウイグル)人の秘宝を奪ったことに対する、回鶻人の復讐だった!
なんて始まるんだよ(苦笑)。これだけで40ページほどで、軽い導入くらいのウェイト。およぞZ級の味わいにあっけに取られるんだが、袁世凱から別な秘宝の手がかりを託された「支那の貴公子」張教仁と、死去した袁世凱の生まれ変わりを自称する秘密結社の主袁更生、謎を知る土耳古美女紅玉といった面々と、冒頭で登場したラシイヌ&レザールの探偵コンビが、三つ巴の秘宝争奪戦を上海で繰り広げ、秘宝のありからしいボルネオの奥地に探検に赴く。スパイ小説風の味わいから、秘境冒険小説に化けてしまう....まあ、何というか、ジャンルが迷子の小説である。
それでも「神州纐纈城」みたいな陰惨さがなくて軽妙で脳天気な展開なのと、国枝一流の流麗な美文から、ついついクセになる面白さはある。小栗虫太郎の西洋伝奇モノってさ、こういう国枝史郎の後継者みたいな感じだったんだね...と思わせる。虫太郎の鋭さとか陰鬱さはなくて、もっと軽くてマンガっぽいが、それでもヴェルヌとかハガードとかドイルの「面白小説のエッセンスを自分なりに再調合してやろうじゃないの」という意欲はよく窺われる。
困惑はするけど、それでも読んでいるうちは少なくとも面白い。だから本当に、困る。けど本作、翻訳小説みたいな名義で書かれたけども、国枝史郎バリバリのオリジナル作。しかも1923年。乱歩がようやく「二銭銅貨」書いた頃なんだよ!欧米風ミステリ創作では、国枝の方がハッキリ先行しているね。

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