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ミステリの祭典

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陽はメコンに沈む

作家 伴野朗
出版日1977年03月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2019/01/25 21:44登録)
 P新聞サイゴン特派員結城省平は他社とのスクープ合戦の末、九年前ビエンチャンで行方不明になった旧帝国陸軍の「作戦の神様」こと辻政信参議院議員の消息記事を物した。だがそれは彼が巻き込まれる謀略事件のほんのきっかけに過ぎなかった。
 まもなく彼を訪ねて日本から、元辻の従卒と名乗る初老の日本人・蛭間慶三郎が現れる。彼はつい最近辻から送られたというハガキを所持していた。消印はビエンチャン。
 結城はハガキの撮影と引き換えに消息記事の情報源を明かすが、直後にラオス当局に拘束され、取調べを受ける。内務省担当官フォンサバンの横にはCIA局員と思しき男、"ポパイ"ことジム・ホールデンが同席していた。
 解放された結城はL貿易ビエンチャン支店の三越優に迎えられる。三越の上司・上田剛介の尽力によるものだった。事件について話し合った結城は三越と別れ帰宅するが、その途次二人の男が揉み合う現場に遭遇する。一つの影は流れるように駆け出し、後に残されたのは下腹を抉られた蛭間だった。彼は「ツ・・・・・・ジ・・・・・・」という一語を言い残し息絶える。
 呆然とする結城は、まもなく情報源の中国人・趙光宇の死体がメコン川の河床で見つかった事を三越に知らされる。辻政信は生きているのか? 二重殺人の犯人は彼なのか?
 「五十万年の死角」で第22回江戸川乱歩賞を受賞した伴野朗の受賞第一作。例によってテンポ良くストーリーは進みますが、前作に比べるとやや薄味。この時期のインドシナ半島を題材にした作品には、他にサイゴンを背景にした結城昌治「ゴメスの名はゴメス」がありますが、雰囲気的にもあっちが上。もう少し後だとル・カレ「スクールボーイ閣下」になります。
 舞台がビエンチャン→パクセ→バンコク→そして再びビエンチャンと目眩るしく変わる中で、ホーチミンルート(北ベトナム軍の重要戦略補給路)を叩き潰すためにCIAが用意した〈オペレーションC〉計画のスパイ探しが作品の眼目。でも「あっ、そうか」以上の驚きは無いんだよなあ。東南アジアの雰囲気はそれなりに出てますけどね。アクションも若干ありますが、あくまで「そこそこ」レベル。読み易い水準作ですね。前作や「三十三時間」と比べるとはっきり下。
 余談になりますが、趙光宇から辻政信の消息を聞き出すシーンは、当時朝日新聞の現役特派員だった作者の実体験。読んでてこの部分が一番生々しかったです。wikipediaの辻政信の消息記事もほぼ作品本文のまま。興味のある方は一度目を通されてはいかがでしょうか?

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