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ミステリの祭典

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九頭の龍

作家 伴野朗
出版日1979年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2019/02/05 15:21登録)
 日清戦争を目前に控えた1885(明治十九)年の東南アジア。宗主国としてベトナム阮(グエン)王朝を支配するフランス・インドシナ駐屯軍に対し、痛撃を与え続ける抗仏ゲリラの一団があった。その名は〈九頭の龍〉。漂流者として父と共に阮朝の御史ファン・ディン・フンに助けられた日本人、加治侠(いさむ)と武(たけし)の双生児だった。
 弟の侠は卜伝流刀術の達人、兄の武はその卓越した頭脳で弟を補佐する。共に妻子をフランス兵に殺された二人は復讐の念に燃え、クーデターに失敗した咸宜(ハムギ)帝及び摂政トン・タト・テュエットを、根拠地に匿うまでに勢力を伸ばしていた。
 ゲリラの跳梁に業を煮やした駐屯軍総司令官ド・クルシイ将軍は、参謀長ジャン・メニュリー大佐に〈九頭の龍〉殲滅を厳命する。野心に燃えるメニュリーには、改めて問われるまでもないことだった。
 彼は情報を分析し、ついに賊の根拠地を突き止める。紅河デルタのはずれの、海に向かって突き出た「九頭の龍の岬」――だがそこはまさに難攻不落の要害だった。無数の岩礁と、満潮時にだけ姿を現す迷路のような水の流れ。しかも陸側は毒蛇の生息地なのだ。
 数々の失敗を繰り返すのち、遂にメニュリー大佐は乾坤一擲の奇策を思いつく。その計画の名は"オペラシオンU"。彼は計画遂行の鍵を握る工作員モンギランに接触するため、フランス本国へと帰国する。
 一方駐屯軍内部に忍ばせた間諜"九月"の、断末魔の言葉からメニュリーの陰謀を察した〈九頭の龍〉側も、双子の兄・武を留学生としてパリに向かわせるのだった。
 そして両者の熾烈な諜報戦の舞台はフランスへと移る。加治武は"オペラシオンU"の秘密を暴き、「九頭の龍の岬」破壊を阻止できるのか?
 昭和54年3月号から5月号まで「小説現代」誌に短期集中連載の形で発表。「Kファイル38」に続く第6作で、フランスのインドシナ支配を巡る抵抗運動を背景に、世界海難史上の謎といわれる日本海軍所属の巡洋艦「畝傍」消失を描いたもの。「畝傍」は日清戦争前にフランスで建造され、ルアーブルから日本に向かう途次、シンガポールからの連絡を最後に行方を絶った船です。この事件がどう関わってくるかは読んでのお楽しみ。
 「三十三時間」同様、後半は「畝傍」船上での工作員・犯人探しになりますが、前半1/3のメニュリー大佐との駆け引き中心の、諜報戦の方が面白かったですね。戦闘描写もあって、田中芳樹の良作に触れてる感じ。無理に犯人探しにせずに、このままアクション系で突っ走って欲しかったです。名狙撃手ボー・ベト・ルオンとか、火薬の達人夏子敬(シアッチン)とか、せっかく良いキャラがいるのにあまり活躍できないのが惜しい。 犯人探しが悪いとは言わないけどメンバー途中加入や入れ替えとかあって、煮詰まったムードが少ないのがいけないのかな。
 伴野朗の最高傑作という声もありますがそこまでではない。「三十三時間」≧本書>「五十万年の死角」というところです。

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