十人の小さなインディアン 戯曲 |
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作家 | アガサ・クリスティー |
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出版日 | 2018年07月 |
平均点 | 4.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 4点 | クリスティ再読 | |
(2018/12/22 21:45登録) さて今年の新訳クリスティとして論創社から出たもの。小説に原作がある戯曲3つにおまけとしてパーカー・パインものとして既訳がある「レガッタ・デーの事件」の初出がポアロものだったのを収録している。戯曲はそれぞれ「そして誰もいなくなった」「死との約束」「ゼロ時間へ」が原作。もちろん「そして誰もいなくなった」の戯曲版は新訳ではなくて評者もすでに論評済なのでそちらに譲る。そっちのが訳が良いように思うのだが...でオマケの「ポアロとレガッタの謎」はパーカー・パインの方とあまり変わらない。なので特にありがたみはない。 「死との約束」「ゼロ時間へ」は2つとも原作をシンプルに仕立て直したような雰囲気の戯曲化である。このため小説では強調されていない作品的な狙いが直接露わになっているが良いところ。ただし、芝居なんでパズラーにコダワる意味がないのはクリスティ承知の上なので、小説みたいなフェアな推理にはならない。仕方ないでしょ。「死との約束」はボイントン夫人を「異教の偶像のよう」と形容して、子供を貪り食うモロク神に見立てているあたり、小説よりも狙いがはっきりするが、真相に改変がある。まあこれは読んでのお楽しみ。ちなみにポアロは出ない、というか芝居だとクリスティが「イメージ違う!」となっちゃってクリスティ本人が出したくないようだ。 「ゼロ時間へ」はセットがトレシリアン邸1つの室内劇として再構成。なのでトリーヴズ弁護士は死なずに最後まで事件に立ち会う。話の中心が分かりづらい小説よりも、この戯曲の方が整理されている印象がある。 けどねえ、本書戯曲だから字面はスカスカだけど600ページあって、定価は4500円。とてもじゃないが、お値段だけの価値がある本とは呼べない。マニア相手のコレクターズアイテムくらいに思っておけばよろしい。評点にはこの定価が結構響いてるよ。せいぜい3000円で出ないのかね。 しかしね、数藤康雄氏が巻末に「解説」として「劇作家としてのクリスティ」という研究を載せていて、これがちゃんとした上演がされていないものまで網羅した力作である。ほぼこの値打ち、と思うしかないな。評者と同じく数藤氏も「蜘蛛の巣」がお気に入りとわかって嬉しい。 |