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ミステリの祭典

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ミルクマン
スケルトン・クルー

作家 スティーヴン・キング
出版日1988年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2018/12/09 23:42登録)
キング三分冊の短編集の最後である本書はヴァラエティ豊かな作品集となった。
得体のしれない男ミルクマンの話2編にファンタジックかつロマンティックな男女の話を描いたもの、そして謎めいた怪物が湖に巣食う話、次々と人を殺しながら目的地に向かう男女2人の物語、漂着した惑星の生きた砂の話に凄まじく狂った漂流者のサヴァイヴァル小説、苦手なおばあちゃんと留守番する話、そして人生の終焉を迎える話。
不条理な話から定番の未知なる生物、暴力衝動、殺人衝動に駆られる人、極限状態に置かれた人間、一人で病人と共に留守番しなければならない子供、一度も島から出たことのない老婆、いずれもモチーフは異なりながら、そのどれもがキングらしい作品ばかりだ。

本書では「トッド夫人の近道」と「おばあちゃん」、そして「入り江」をベストに挙げる。
「トッド夫人の近道」はワンダーを描きながらこれほどまでに清々しい思いをさせられる、キングならではの唯一無二の傑作。
「おばあちゃん」は少年が幼い頃に怖くて仕方がなかったおばあちゃんと一緒に留守番をしなければならないという、誰もが経験ありそうな実に身近な嫌悪感やちょっとした恐怖―怯えという方が正確か―を扱いながら、最後は予想もしない展開を見せる技巧の冴えに感服させられた。
短編集の最後を飾る作品でもある「入り江」は死出の旅立ちの物語だ。島で生れ、島で育ち、一度も本土に渡ったことのない老婆が初めて本土に渡る時は死を覚悟した時だ。
ある死者は云う。生きていることの方が苦しいんじゃないか、と。私は最近こう思う。もし癌や重篤な病に侵され、生命維持装置や植物人間状態になった時、それで生かされていることはもはや人生なのかと。人生の潮時を見極め、そして自ら選択する、そんな風に自分の人生は始末を付けたいものだ。
しっとりとした読後感が心地よい余韻を残す。この作品が最後で良かったと思わせる好編だ。

短編ではかつてワンアイデアで自身が抱いていた原初的な恐怖を直截に描いているのが特徴的と思われたが、『恐怖の四季』シリーズを経た本書ではワンアイデアの中に色んな隠し味を仕込んで重層的な味わいが残るような感じがする。「トッド夫人の近道」なんかはその好例で作者が意図しているにせよしてないにせよ私の中で想像力が広がり、余韻が増した。もしかしたら他の短編もまだ消化不十分で後日ふと隠し味が蘇ってくるかもしれない。

しかし彼の頭の中にはどのくらいのキャラクターがいて、そしてどのくらいの人生が詰まっているのだろうといつも思わされる。彼の頭にはヴァーチャル空間のセカンドライフが接続されている、そんなように思わされた。

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