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ミステリの祭典

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華麗なる門出
マイケル・カレン

作家 アラン・シリトー
出版日1974年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2018/11/22 17:13登録)
(ネタバレなし)
 1960年代の英国ビーストン地方。「ぼく」こと私生児マイケル・カレンは、母と祖父母に養育された。マイケルは十代の内から不動産関係の職につくが、旧友の彼女を寝取り、さらには会社の利益を横領した。やがて悪事が発覚して故郷を出たマイケルは、旅先でさまざまな人に出会いながらロンドンに到着。少しずつ裏の世界への道を歩み始める。

 1970年代の英国作品。『長距離走者の孤独』の作者シリトーによる(広義の)ミステリ作品=悪漢小説(ピカレスク)というwebでの噂を聞いて興味が湧き、読んでみた。
 主人公マイケルの幼少期を語る心情吐露が長々と続く序盤はちょっとだけかったるいが、最初のヒロイン格となる少女クローディーンが登場する20ページあたりからハイテンポかつ扇情的に物語も叙述も弾みはじめ、あとは上下巻あわせて500ページ弱をほぼ一気読みである。シリトーの作品を読むのはこれが初めてだが、本作は著作のなかでも読みやすく面白いとの評判で、うん、納得。

 小説の構造は
①マイケル自身の境遇の流転
②マイケルが道中やロンドンで出合った人たちぞれぞれの、問わず語りの人間ドラマ
③マイケルをふくむ主要キャラたち同士の(かなり偶然も多用された)からみ合い
 の三要素で構成され、特に②のファクターが、本作の個性を打ち出すくらい比重が大きい。この種の叙述部分が随時始まると主人公マイケルは狂言回しにまわり、入れ子的な構造のアンソロジードラマに切り替わるような趣がある。ただ、それらの逸話はそれぞれエキセントリックなものであり、さらにその多くが奔放なセックス描写のおおらかさで彩られているので、まったく退屈はしない。小説を読む醍醐味を感じさせてくれる。

 それでミステリ的にはというと、終盤にちゃんと相応にノワール的な展開に深く入り込み、登場人物同士の良い面・闇の部分、それらこもごもの思惑が縦横に交錯する。苛烈な内容ながら、それでもどっか小説の基調には人を食ったのほほんとした味わいがあり、これが結局は作品総体の魅力になっている。

 訳者の河野一郎の言うように先駆の古典文学へのオマージュなども読み取れるだろうし、ほかのシリトー作品を読み込めばさらに見えてくるものもあるだろうが、とりあえず一編のピカレスクミステリとして読んで、十分に楽しかった。
 原書では、しばらくしてから執筆された未訳の続編があるみたいだけど、それもできたら読んでみたい。

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