home

ミステリの祭典

login
密輸
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1993年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2019/01/13 11:07登録)
 元騎手の馬匹運搬会社〈クロフト・レイスウェイズ〉経営者、フレディ・クロフトは激怒した。常々言い含めているにも関わらず会社の運転手がヒッチハイカーを乗せ、しかもその男は車内で死んでしまったのだ。死因は心臓麻痺。どうにもならなくなった運転手たちは報告ついでに馬運車を彼の自宅に運び込み、仕方なくフレディも検死までとそれを了承する。
 その夜何者かが当の車にしのびこみ、何かを探していった。目を覚ましたフレディは賊を追うも取り逃がしてしまう。翌日彼は社の修理工ジョガーに、車両全台の点検を依頼する。結果は驚くべきものだった。数台の車体の下に、それとは解らぬ形で携帯用金庫が取り付けられていたのだ。
 馬運車は転戦する馬たちを乗せて、イギリスやヨーロッパ各地を動きまわっている。コカインの密輸か? それとも・・・。
 フレディはジョッキイ・クラブ保安部長パトリック・ヴェナブルズに連絡を付け、クラブは女性調査員ニーナを派遣する。女性運転手として彼の会社に潜り込むのだ。
 だがその矢先にパブで口を滑らせたジョガーが事故死を遂げる。彼は死の直前に、謎のメッセージをフレディの留守番電話に残していた・・・。
 競馬シリーズ第31作。前作「帰還」の流れを汲む医学系サスペンス。ストーリー半ばまでそれほど動きはありませんが、フレディが再び現れた侵入者に後頭部を殴られ、サウザンプトン港に投げ込まれるやテンポは一転、辛くも岸壁に這い上がるも、訪れていた実姉のヘリコプターと愛車ジャガーは激突させられ、彼の自宅は手斧で破壊の限りを尽くされます。
 「悪意を振りまく事、破壊そのものが快感」という犯人で、このタイプは今後もフランシス作品に形を変えて登場します。本書は明確にその姿を描いた最初の作品と言えるでしょう。
 前半の地味そのものな部分にも丹念に伏線が張ってありますが、全体に起伏が少ないのが難といえば難。とはいえ意外性はかなり用意されています。佳作にはちょっと届きませんが、なかなか良い作品です。

1レコード表示中です 書評