home

ミステリの祭典

login
漁師とドラウグ

作家 ヨナス・リー
出版日1996年08月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点
(2019/01/15 12:43登録)
「北の海の物語」。国書刊行会のゴシックシリーズ〈魔法の本棚〉の中で、リチャード・ミドルトンの「幽霊船」、アレクサンドル・グリーンの「消えた太陽」と共に、まだ文庫化されていない短編集の一つ。装丁の美しさは写真からも解りますが、本書は内容的にも素晴らしい。
 北部ノルウェーの民話伝承を下敷きに思うさま想像力の翼を羽ばたかせた作品集で、独特の暗さや過酷さの中で、超常なるものに抗う人々やその愛情、また彼らを取りまく不思議な出来事が雄渾な筆致で描かれます。全11編収録。
 やはり抜きんでているのは表題作「漁師とドラウグ」。首に銛を突き立てられた海魔が企む漁師エリアスへの復讐譚ですが、真冬のノールランの荒海を舞台に凄絶な物語が繰り広げられます。
 これに続くのは「岩の抽斗」。地の底の民の財宝を見つけてしまい、魂を魅入られてしまった男を襲う降誕節前夜の妖しい誘い。
 アンソロジーピースの二編の他にも「綱引き」「妖魚」などの作品も。どちらも掌編といっていいですが、独特のムードが魅力的です。
 美しくも悲しい恋の物語「アンドヴァルの島」。大いなるものへの挑戦と愛「スヨーホルメンのヨー」「風のトロル」。滑稽な「あたしだよ」等、粒が揃っていてハズレがありません。
 ヨナス・リーはノルウェー自然主義の四大作家と呼ばれる国民的作家。コナン・ドイルの同時代人で、著作も非常に多い。本作品集が刊行された時期には北欧文学はそれほど注目されていませんでしたが、近年各出版社の翻訳が非常に進みましたので、もっとリーの作品を意欲的な方に訳出してほしいものです。

1レコード表示中です 書評