home

ミステリの祭典

login
夜獣

作家 水谷準
出版日1956年01月
平均点3.00点
書評数1人

No.1 3点 人並由真
(2018/11/15 12:11登録)
(ネタバレなし)
 昭和30年前後、その年の3月12日。ゴルフ練習場の食堂のボーイで、プロゴルファーとしての成功を夢見る青年・佐治省吾は、恋人の敬子から距離を置きたいといわれてクサる。やけ酒を煽った彼は、戦時中に憧れた女性「白い窓の女」にそっくりな美女にたまたま街角で遭遇。ついフラフラと後をつけると女性は閑寂な屋敷に入り、やがて家の奥から銃声が鳴り響く。女性は省吾に気づかずに退去。邸内には中年男の死体が転がっていた。女性が犯人? 真相は不明なまま、勝手に彼女に思い入れた省吾はその嫌疑をそらそうと殺人現場にデタラメな証拠をばらまき、そして知人である新聞「太陽新報」の記者・丹野泰三に殺人事件の発生を匿名で通報するが。
 
 昭和31年に講談社から刊行された「書下し長編探偵小説全集」の一冊。同叢書は『人形はなぜ殺される』『黒いトランク』『上を見るな』などの日本ミステリ史に残る、当時のまだ新世代作家の名だたる作品を輩出し、さらに横溝の『仮面舞踏会』が刊行予定に上がりながら未刊に終ったことで有名。それらの傑作や話題? 作とならんで、本作もラインナップされた。
 本当に大昔、少年時代に古書店で「水谷準といえば戦前からの巨匠だな」「題名からすると怪獣っぽい殺人鬼キャラクターでも登場するのかな」という興味で元版を購入。その後、ウン十年、ずっと自宅で積ん読だったが、実際のところどんなんだろ、と思って、このたび読んでみた。

 そしたらこれがまあ、いかにもノープランで一冊書き上げたという感じの悪い意味での昭和スリラーで、出来があんまりよろしくない。登場人物をひとりひとりきちんと描き込まないうちに続々とキャラクターを出しちゃう小説の作りもヘタな実感である。終盤の謎解きもそのように並べた登場人物の一人に、真犯人の役割を押しつけた感じだし(ただし動機はちょっとだけ、この時代の作品としては先駆的? で面白いかもしれない)。
 全般的に退屈で、これなら今まで自分が読んだ同じ叢書の作品のなかで、比較的下位だった乱歩の『十字路』の方が三倍は面白かった、という手応えである(ちなみに評者は上に名前を挙げた「書下し長編探偵小説全集」の三大傑作の中では『上を見るな』だけ、まだ未読)。
 もちろん水谷準のかつての名短編『お・それ・みを』や『カナカナ姫』のような奇妙な詩情やハイカラさは微塵もないし。あと題名の「夜獣」。このタイトルロールに見合う悪役キャラ、怪人物が結局は最後まで出てこないのも不満。劇中でも特にその修辞を受ける登場人物は存在しないし。(一応「黒いマントの男」という謎の容疑者は出るから、コレのことか?)

 日本探偵小説界の黎明期から活動していた古参の作者は当時、同じ叢書に後陣の若手作家の傑作群が次々と並ぶ様を見ながら自作を顧みて、どういう心境だったのだろう。すんごい意地悪な見方を承知で、つくづくそう思う。

1レコード表示中です 書評