(2018/11/09 21:27登録)
(ネタバレなしです) ミステリーを長編4冊と短編集1冊を残したフランスのアンリ・コーヴァン(1847-1899)のデビュー作で代表作が1871年発表の本書です。ROM叢書版の巻末解説ではコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズに影響を与えた可能性を示唆していますがどうなんでしょう?イギリスではその説が流布していないのは何となく理解できますが。国民的ヒーローのモデルがフランス人なんて説は絶対に認めないでしょうね(笑)。探偵役であるマクシミリアン・エレールは病弱で隠遁生活をおくっている身、いつ死んでもおかしくないと思い込んでいてなかなか個性的人物です。医者(名前は紹介されません)が彼と出会い、事件捜査に巻き込まれながら友情を育んでいくプロットはなるほどホームズとワトソンの出会いを連想させるところがあります。物語が2部構成なのは先輩作家のガボリオや後進作家のドイルとも共通していますが、ガボリオやドイルが過去を大きく遡ったり登場人物を入れ替えたりするのに比べると本書は語り手の交代こそありますが事件の解決という目標はずらさないので非常に読み易いです。病弱なマクシミリアンが行動的なのがサスペンスを盛り上げるのに効果的です。犯人は中盤ぐらいで指摘されますが殺人罪以外の秘密の方がインパクトありますね(でも何であんな目立つことしたんでしょう?)。そこの説明がもう少し明快であればとも思いますが、書かれた時代が時代なので謎解きの完成度をあまり追及しないのが読者としての礼儀かも。
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