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ミステリの祭典

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道化たちの退場

作家 多岐川恭
出版日1977年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2018/10/15 21:56登録)
 戸栗新作は中堅どころのカメラ会社である武蔵野光学に勤める冴えない中年サラリーマン。他社からの移籍後に創立者・郷田武介の目に留まり、側近として立ち働いていたのも遠い昔。その僅か5年後に武介が脳卒中で急死してからは冷や飯を食わされ課長にもなれず、閑職の出納室長として無きに等しい扱い。妻や家族からもバカにされ、俳句と庭弄りが趣味という無気力な男。
 そこに彼の同窓生・金井敏明が突然訪れる。突然の闖入者に戸惑う戸栗だが、幾度かの来訪に次第に心を許し始める。だが金井の目的は金庫破りだった。一切迷惑は掛けないから、されるがままに狂言強盗の片棒を担いでくれと言うのだ。さらに彼は情婦の妹が経営するスナック「陽」に女を用意し、戸栗を深みに引き込もうとする。
 戸栗はその誘いを撥ね付けるが、運命のいたずらか金井がお膳立てした女ではなく、平凡な顔立ちのクラブの女・弘美と関係を持ってしまうのだった・・・。
 仁木悦子の「灯らない窓」、鮎川哲也の「戌神はなにを見たか」を含む、講談社の「推理小説特別書下し」シリーズの一冊。1977年発表。「的の男」等とほぼ同時期で、作者としては後期の作品。書き下しということでかなり力が入っています。
 サラリーマン小説風の書き出しで、作品の半分は冴えない男の平凡な情事が綴られますが、中身はどうして二重底三重底。創立者の息子である郷田専務のクーデター計画が描かれると同時に、狂言強盗を強引に成功させた金井が轢き逃げされ、何者かに土地代金の八千二百万円が強奪されると後はハイテンションの推理合戦。チラチラ見え隠れしていた伏線が一気に結ばれていきます。
 浮気がバレた戸栗が帰宅して修羅場が始まると思いきや、息子や娘も一緒になって事件のブリーフィングが展開し、妻が毒気を抜かれた後に一家全員がなんとなくサザエさん状態になったのには笑いました。
 全体としてややバランス悪いのが難ですが、後半部分の怒涛の詰め込みっぷりはかなりマニア受けすると思います。特に作者の手札が全て曝される「ショウ・ダウン(一)(二)」と題された章は圧巻。作品のあちこちに戸栗のへたくそな俳句が挿入されているのもとぼけてます。いったい誰が道化なのか?探して読む価値は十分あるでしょうね。

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