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ミステリの祭典

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七人のイヴⅠ

作家 ニール・スティーヴンスン
出版日2018年06月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 小原庄助
(2018/10/08 09:34登録)
地球滅亡の危機が迫っていると知ったら、人類はどんな行動をとるのか。
この作品では、突然、月が七つに分裂したところから物語が始まる。科学者たちは、衝突を繰り返したかけら同士が、無数の隕石となって2年後に降り注ぎ、地球全体が灼熱地獄になると予測。「ハード・レイン」と名付けられたその現象は、数千年も続くという。
各国の政治・宗教指導者は、ごく少数の人間を選んで宇宙に送り出し、国際宇宙ステーションを拠点に人類の種を保つ「クラウド・アーク」計画を立案。取り残される人々が自暴自棄にならないよう、彼らの精子や卵子を凍結保存し、デジタルデータ化した写真や記録とともに送り出すことと併せて全世界に発表する。
地球滅亡に際して、「宇宙の箱舟」を送り出すという物語は繰り返し描かれてきた。本書の特徴は、宇宙船の建設化学など技術面の緻密な描写はもちろん、「公平」を装いながら進む選抜を巡る各国の駆け引きや、破滅が迫る中でのメディア戦略など政治、経済から文化や宗教を巡る問題まで多角的な視点を盛り込んでいることだろう。
本書は3分冊の1冊目。まだ「ハード・レイン」は始まっておらず、破滅が迫る中でも、社会の秩序は保たれている。そこには、科学者には無意味としか思えない宗教儀礼や、宇宙で生まれるはずの「子孫」への情緒的期待がはたらいていた。
知識や資産を惜しみなく提供する者がいる一方、この期に及んでも既得権や国家意識に固執する人々も多く、計画は一筋縄ではいかない。
現代の政治や社会を考える上で示唆に富む描写も多く、前米大統領のオバマや、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが絶賛したのもうなずける。

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