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ミステリの祭典

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悪魔のカタルシス

作家 鯨統一郎
出版日2002年10月
平均点1.00点
書評数1人

No.1 1点 Tetchy
(2018/10/07 22:06登録)
結論から云うと時間の無駄だった。あまりに広げすぎた内容は収束しないまま終わる。むしろ物語の決着をつけるのを作者が放棄したようだ。
突如悪魔の姿が見えるようになった26歳の若者、牧本祥平が同様の能力を持つ者たちを集め、悪魔の侵略に立ち向かうといった内容だが、作者はその単純なプロットに、一捻りも二捻りも加えることで複雑化し、先の読めないストーリー展開を拵えようとしているが、逆にそのために収集がつかなくなってしまったようだ。

これは恐らく何冊か書き続けられる伝奇サスペンス小説として書かれれば、また違った読み応えとなったかもしれない。
先の読めない展開に次第に強まっていく悪魔の勢力。侵略物の小説としては定番ながら世界が広がる要素を備えている。
しかし脚本のようにあくまでシンプルで紋切り型な文体に展開が早く、また登場する登場人物もじっくり描写されることもなく、物語を進めるためのキャラクターとして書かれているかのように鯨氏の扱いは実に淡泊だ。

書き方によってはもっと面白く書けたと思えるだけに。この結末はまるで某有名少年誌の不人気で連載打切りを云われたマンガのように、唐突で投げやりだ。

本書の冒頭には作者からのメッセージでこう書かれている。

「あなたにはこの本を読まない権利があります」

つまり本書は最後のメッセージに照らし合わせれば作者自身が読むのをやめることを進めている作品だ。つまり作者自身がその出来栄えから読まなくてもいいよ、駄作だからと云っているのかもしれない。
実際その通りで、この本は読まないでいい本だった。

本書は書き下ろし作品である。この原稿を受け取った担当者はどのような感慨を抱いたことだろうか。私はある意味冒険だったのではないかと思う。作者の意図が読者に通じるかを試すための。
しかしもしそうだとしてもそんな作者の意図は別にして小説として問題の作品だ。
これを手に取る人は作者の云う権利を行使することを強くお勧めする。

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