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ミステリの祭典

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十三妹
シイサンメイ

作家 武田泰淳
出版日1966年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2022/04/27 21:43登録)
「第一次戦後派」というと、戦争が題材で、文体は「実存文」という奴。「暗い重いニッポン文学」の代表みたいなものなのだが、武田泰淳はずっと茫洋としてロマン寄りのところがあるから、評者高校生の頃愛読したなあ。例えばアイヌの青年と女流画家の恋愛と闘争を描いた「森と湖のまつり」やら、食人事件を扱った「ひかりごけ」やら、スケール感のある作品を書ける珍しいタイプの作家だったわけだけども...亡くなったら本当にすぐに本を見かけなくなった。ブンガクってイバっても「商品」なんだ、というのを思い知らされたよ。

で、この人、評伝の「司馬遷」がそもそも出世作だし、戦中~戦後の時期上海で過ごして、その時代をネタに「風媒花」を書いたりで、中国に縁の深い作家である。1966年に新聞小説として書かれたのが本作なんだが、主人公が十三妹(しいさんめい)。伴野朗の「五十万年の死角」に登場する藍衣社(国民党)の女スパイがこの名前を名乗るわけだけど、中国清末の武侠小説「児女英雄伝」のバトル・ヒロインで有名なキャラだ。
武侠小説も最近は翻訳もあるし、マンガのネタにも使われて知名度が上がっているわけだけども、泰淳昭和の御代からネタにしている。とはいえキャラを借りて、さらに別の武侠の「三侠五義」の人気者の白玉堂や名裁判官包拯(中華ミステリの名探偵、かも)も登場のオリジナル・ストーリー。和製武侠小説の先駆というのもあって、解説を田中芳樹が買って出ている。

...なんだが、結構お話はとっ散らかっている。場面場面は楽しいんだけどねえ。続編を書くつもりが実現しなかった、という事情もあるようだ。十三妹も白玉堂も「忍者」だそうである(苦笑)。それこそ風太郎忍法帖みたいな面白さがでるところもある。この白玉堂のスネ者、屈折ぶりがなかなか、いい。それに対し、十三妹の亭主の安公子が、劉備とか三蔵法師を思わせる無能キャラなのは中華のお約束。なぜ十三妹が頑張って保護するのか理解不能。それでも白玉堂ともども美形設定。

中華モノは、たとえば安能「封神演義」とか読むと、「中国人って理解不能...」なんて思う箇所もいろいろあるわけだけども、本作は日本人が書いているから、ちゃんと日本の読者に伝わるように書けて、しかも異文化の話、というのがきっちり伝わる。バランスのとり方がさすが泰淳ではあるんだけどね。

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