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ミステリの祭典

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上空の城

作家 赤江瀑
出版日1977年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 tider-tiger
(2018/09/25 20:43登録)
~夏休みを利用して城巡りをしていた大学生の眉彦は松本城にて放心したように天守閣を見上げる同年代の女性を見かけて胸騒ぎを覚える。
くだんの女性蛍子は城を探している。 
五層の大天守閣、窓はなく、黒く塗りつぶされた壁。
脳裏に浮かぶのは、いつもこの黒い城だった。
幼い頃からずっと。~

蛍子の頭の中にいつも存在し、いつしか彼女を悩ませるようになった黒い城。この城は実在するのか。この興味深い謎が話の軸であるが、眉彦と蛍子が主体的に謎を解いていくというわけでもなく、また謎解き以外の要素にも多く筆が割かれ、個人的には退屈に感じる部分もあった。ちと辛い会話もしばしば。
導入から過去と現在を交錯させる手法が使われ、読みにくさを感じさせないこともないが、こうした二重構造が最後まで貫かれ、本作のテーマ「影」をくっきりと浮かび上がらせる。
主人公の眉彦をいわゆる城マニアにはせず、行きがかり上やむなく城郭研究会なるものに所属しているという設定にしたのは良かった。不要な城の蘊蓄をなくし、それでいて眉彦を違和感なく真相に近づけることができた。
黒い城の謎とその解には大満足。タイトルの上空の城はそういうことだったのね。
物語としては決着の付け方がいまひとつ。ミステリとしては主人公が謎を解くというより、棚ぼた式解決であった点がちょっと、といったところ。
着想は素晴らしく、物語としてもう少しうまく着地できていれば名作になったんじゃないかと。ものすごく美味しく、惜しい作品だと思っている。
とても喚起力のある作品で、本作の着想から別の作品が二、三本書けそうな気がするのだが。このまま埋もれさせてしまうのは勿体なさ過ぎる。大好きな作品。
クリスティ再読さんが別の作品の書評で中井英夫について言及されていたが、耽美的な作風、ハッタリの効かせ方なんかは確かに中井英夫ばり。天空を漂う中井英夫、地を這う赤江瀑といった印象がある。
表紙裏に『妖気漂う、オカルトロマン!』などと記されているが、伝奇ロマンといった方が本作には合っているように思う。

この前書評したレイ・ブラッドベリは六年前に亡くなっているが、その数日後に赤江瀑が亡くなっている。ジョン・レノンが亡くなった時に母親が騒いでいたのが子供心になんとも不思議だったのだが、好きだった作家やミュージシャンの訃報に接することが多くなってきて、最近ではその気持ちがすごくよくわかる。

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