home

ミステリの祭典

login
不思議なシマ氏

作家 小沼丹
出版日2018年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2018/09/17 12:06登録)
(ネタバレなし)
『春風コンビお手柄帳』に続いて刊行された一冊。こちらは小沼の大人向けの未書籍化作品を集成してある。表題作は主人公の青年ナカ(シマナカ)が出合った美女トンビと謎の奇人シマ氏の関わりをからめながら、殺人? 事件の謎に迫っていく軽妙ミステリで、これはまあ、良い意味で作者に鼻面を掴まれて振り回される楽しさを味わえば十分だろう。巻頭の短編『剽盗と横笛』は日本版「マンハント」とかに掲載される、今で言うノワールものの翻訳短編のような感触で、これもミステリとして悪くない。
 ほかの三編、西洋ラブコメ? 時代劇『ドニヤ・テレサの罠』、民話風の『カラカサ異聞』、海洋漂流冒険譚の『初太郎漂流譚』(これと『シマ氏』が本書の中では特に長め)、それぞれに好テンポでページをめくらせ、気がついたら一冊を読み終えていた。
 『春風コンビお手柄帳』ともども本書は「小沼丹生誕百年記念刊行」の叢書の一冊だが、各書の巻末には、当時の初出の雑誌の誌面現物のビジュアルまで採録した本当に丁寧な解題が付されており、ここまで手をかけた送り手の気概と作者への敬愛の念に感嘆する。
 ほかの作者の旧作復刻も全般的にこのレベルでやってくれたら、日本の出版文化はさらに向上するだろうな。

1レコード表示中です 書評