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ミステリの祭典

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明治バベルの塔

作家 山田風太郎
出版日1992年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 メルカトル
(2020/10/28 22:49登録)
万朝報の売上げを伸ばすため仕掛けた暗号とは(表題作)。漱石の文体模写をした『牢屋の坊っちゃん』、牛鍋屋チェーンの木村荘平が始めた火葬場のこけら落としは誰に(『いろは大王の火葬場』)。幸徳秋水を四分割して描いた『四分割秋水伝』の4篇を収めた短篇集。
『BOOK』データベースより。

所謂明治もの短編を集めた作品集。
表題作が頭一つ抜けている印象はあります。万朝報はライバル誌に打ち勝つため、朝刊の紙面にある暗号を月水金の三回掲載し、宝探し感覚で当時大金であった500円の賞金の目録をある地点に埋めるという、奇抜な物語。ところがある事件が起き、それが暗号と意外な結びつきを持ってくる結末。他3篇は並みの作家が描けば大して面白くないだろうと想像される作品ですが、風太郎の名文というかリーダビリティでもって思わずのめり込んでしまえる珍品に仕上げているのは流石です。

ある犯罪者が牢獄で様々な経験をする悲惨な物語を、一種のエンターテインメントに変貌させる『牢屋の坊ちゃん』。牛鍋屋のかたわら火葬場を始めるに当たって、著名人を最初に火葬しようと躍起になる『いろは大王の火葬場』。これは結末が読めてしまいますが、もう一捻りしているところが面目躍如。表題作でも登場した幸徳秋水が社会主義思想にかぶれ、ついには天皇爆殺を狙う突飛な発想の『四分割秋水伝』。どれも風太郎ならではの意外性のある奇想を発揮して、読み応えのある短編集にまとめていると思います。
尚、本格で登録されていますが、分類不能に入れるべきですね。

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