(2018/09/15 23:09登録)
(ネタバレなしです) ミステリーデビュー作となる短編集「殺人願望症候群」(1989年)で手応えを感じたのか、続いて1990年に発表したのが長編第1作となる本書です。主人公である大学教授の阿羅悠介が戦時中に駐屯していた韓国の済州島で偶然入手したヴェルレーヌの詩集を持って復員してから40年以上が経過しています。再会して旧交を温めた戦友の求めでその詩集を貸すのですが、数日後その戦友が謎の死を遂げるという事件に巻き込まれます。悠介も謎解きに参加しますが圧倒的な存在感を見せるのは姪の由美子の方です。次から次へと発想が飛躍しますが捜査への貢献は非常に大きく、警察から由美子と刑事コロンボを掛け合わせて「由美コロンボ」とまで祭り上げられます(笑)。警察がアマチュア探偵に捜査情報をあんな簡単に提供していいのかと突っ込んではいけません。登場人物が多くしかも互いの関係はあやふや、さらには戦争中の出来事が事件に関連する可能性も出てきますが記憶も証拠も定かでないという難解なプロットの本格派推理小説なので、多少の好都合な展開には目をつむりましょう。地味なキャラクターの悠介だけではとても読者の集中力が持たないと思います。
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