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ミステリの祭典

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謎のギャラリー 名作博本館
謎のギャラリーシリーズ 北村薫

作家 評論・エッセイ
出版日2002年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 Tetchy
(2018/09/14 23:55登録)
北村氏が自身の読書遍歴の中からそれぞれリドルストーリー、中国公安小説と日本最初の本格ミステリー、こわい話、ギャンブル、ゲーム小説、恋愛物語、謎解き物について語ったエッセイ。

まず驚かされるのは北村氏の驚くべき読書量。古典から現代、そしてもちろん国内のみならず中国までも包含したミステリのみならず純文学や大衆小説まで精通している。従って本書で語られる作品は多種多様。『円紫師匠と私』シリーズの主人公「私」は呼吸するように本を読むほどの本好きとして描かれているが、それはまさにこの作者北村氏本人に他ならないという思いを新たにした。

こういったいろんな本について語りたいエッセイではどうしてもその本の内容に触れなければならないが、単に粗筋を書いただけではその作品の本質に触れることが出来ないこともざら。従ってどうしても物語の核心に触れることを余儀なくされるのだが、本書では挙げられた作品の核心に触れる時は、ストップマークとしてジャンケンのパーのマークが挿入され、核心に触れる部分が終るところには「もういいよ」を示すチョキマークが挿入されるという親切設計となっている。

読者をしている人が行き当たる命題の1つは「人生にどれだけ本が読めるだろうか?」ということだろう。その命題に対し、まず明らかなのは誰もが世にある全ての本を、小説を、物語を読むことはできないということだ。でも読みたい本はたくさん目の前にあり、が、しかし時間は限られている。私も40を半ば過ぎて後残りの人生での時間を考えることが多くなった。
そんな限られた時間で人はせっかく読むのだから面白くない本を読んで時間を浪費したくないと考え、年末のランキング本で上位に入った作品を選んだり、ベストセラー本を選んで、時間の浪費リスクを極力回避しようとする。また気合の入った読書家であればそれこそ寝る間を惜しんでいついかなる時も本を携え、空き時間が少しでもあれば本を開いて読むことだろう。または速読のスキルを磨いて1冊に掛ける時間を短縮し、多くの本を読むようにする、とこの命題に対する人の答えは様々だ。

そしてこういった本に纏わるエッセイ、そしてアンソロジーを編むためにあれこれ色んな作品を挙げては話をするエッセイもまたこの命題に対する答えの一助となっていることだ。
知らない作者が多く、まだまだ自分の読書量が少ないものだと思い知らされた。北村氏が感じ入った作品がどんなものかを知るのも興味の1つだが、やはり自分が手に取らないであろう作品を読む機会を得ることがこういったエッセイを読む1つの意義だと思う。

北村氏の物語への愛情と、編集者とのちょっとお茶目なやり取りがアクセントとなったエッセイは私にまた物語への興味を掻き立ててくれた。
ああ、1日が30時間あればいいのに。このようなエッセイを読むと、いつもそう思う。

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