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ミステリの祭典

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きつね火

作家 新田次郎
出版日1972年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2018/10/02 22:05登録)
 直平の住む山村の部落には、きつね火がときたま現れることがあった。それは夏の終わりか、秋のはじめころに決まっていた。
 「きつね火が出ると、村によくないことが起きる」だが直平は大きくなるにつれ、一度きつね火を見たいと思っていた。
 そして秋のはじめの夕暮れどきに母屋の雨戸を閉めていた彼は、ひょうたん池の端に三つばかりの火の行列がかすかに揺れながら動いていくのを見る。そして二度目にきつね火が現れた翌日、村人の五助さんが池に落ちて死んでいるのが見つかった。
 だが直平たちが通う分教場の岩島先生は、噂に惑わされず、あくまで科学的にきつね火の正体を突き止めようとするのだった。
 「子ども科学図書館」の一冊。新田次郎さんの処女作で、原稿が紛失したものをお孫さんのために二十年ぶりに絵本に仕立て直したのだそうです。登場人物の一人、岩島先生のアプローチの仕方は非常に実際的で、きつね火が現れるとまず現場に子供たちを向かわせます。
 その上でひょうたん池周辺の地図を描き、次にきつね火の見えていた地点を確認して印を付け、今度は自分自身がちょうちんを持って池に向かい、人工のきつね火を作り出してみせます。このあたりは気象庁の職員だった作者の面目躍除というところ。
 やがてきつね火は村のある人物の仕業であることが明らかになるのですが、先生は必要以上の追及を避け、結局その動機は語られないまま物語は終わります。真相はそこはかとなく感じられはしますが。
 子供の頃に読んで非常に印象深いものでした。短い作品ですが描写にもなかなか味があります。

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