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ミステリの祭典

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落葉の柩

作家 樹下太郎
出版日1960年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2018/09/12 16:53登録)
 最後のランデヴーの為に温泉に宿泊した会社員戸田省三は、ふと購入した朝刊の写真から、隣室の男が一千万円を持ち逃げした拐帯犯人であると知ってしまった。宿の者も含め、周囲の人間は誰もこれには気付かない。一千万あれば妻と別れ、恋人の花木陽子と何不自由無い生活を送れる・・・。
 決心を固め、巧みに行き止まりの山道に誘導して絞殺した男を、窪地の落ち葉溜めの中に葬った戸田だったが、知らぬ間に写真を撮られていた事には気付かなかった。
 一千万を手にし、宿に到着した陽子に、君と新たな生活を始めると告げる戸田。だがそんな彼の前に池月修と名乗る脅迫者が現れる。せめて事件に巻き込むまいと、彼は再び陽子と別れようとするが、彼女は殺人を薄々察していたと語り、逆に「一緒に戦いましょうよ」と戸田を励ますのだった。
 二人は幸福の妨げとなる池月を排除するため、密かに行動を開始する・・・。
 昭和35年刊。「最後の人」「夜の挨拶」に続く作者の第3長編。分量的には長めの中編といった感じでスルスル読めます。犯人視点の倒叙物ですが、絵に書いたような無関係の目撃者が山奥にそうそう転がっているワケも無く、脅迫側の池月にも弱味がある事が次第に明らかになっていきます。やがて死体も発見されてしまい、一千万円の取り合いを続けながら相手には殺人罪を押し付けようと、両者は天国と地獄のシーソーゲーム。果たして勝利はどちらの手に。
 というお話ですが、ミステリ的には結局無難に落ち着いた感じ。登場人物の人間的な部分を、その弱さも含めて存分に描いているのは好感持てますが、シーソーゲームの結末とオチは少々ありきたり過ぎるかな。捻りが足りないので評価は5点相当。初期作品なので期待してたんですけどね。

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