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ミステリの祭典

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天女の末裔

作家 鳥井加南子
出版日1984年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/09/08 14:53登録)
(ネタバレなし)
 昭和35年10月。岐阜県の一地方で、一人の男が刺殺された。男は絶命の直前、駆けつけた救急班員に、神にやられた、と奇妙なダイイングメッセージを残す。
 それから23年を経た昭和58年。三重県桑名で大手の家具販売チェーン店を取り仕切る実業家・中垣内(なかがいと)純也の娘で、大学を出たばかりの衣通絵(いとえ)は、母校の先輩でボーイフレンドだった青年・石田達彦に再会。彼から、ある民俗学関係の文書のコピーを見せられる。それは、彼女たちと同じ大学でかつてシャーマニズムを研究していた純也が著した論文だった。衣通絵はそれを機に過去と現在にまたがる複数の殺人事件の謎、さらに自分の出生の秘密にからむ天女伝説に分け入っていく。
 
 1984年に元版のハードカバーが刊行された、第30回江戸川乱歩賞受賞作。
 歴代乱歩賞作品のワーストワン(というかベスト投票したら最下位になる作品)という主旨の評を某所で最近読んだので、つい気になって目を通してみた。
 まあ実際、本サイトでもこれまでレビューが無かったくらいの不人気作(あるいはまったく注目されない作品)だったんだけど、そう思って当初から割り引いて読んでみるなら、そんなにヒドい出来ではない。犯人は中盤から見え見え……というか、隠す気は作者にも全くないみたいだし、現代の方の殺人トリックもちょっとだけ創意は感じるものの……そううまく行くかな、という不審も生じるが、B級の伝説ものミステリとしてはそれなりに楽しめる。文体もよくもわるくも無個性なさっぱり系で、後半の矢継ぎ早の展開もご都合的に話が転がされていく印象もあるが、少なくとも退屈はしない。二、三時間でいっきに読み終えられる。あえてヒトに勧めようとは思わないけれど、読んでおいてもいいんじゃないですか、という出来映え。

 しかし巻末の、選考者たちの合評を読んで改めて最高に驚いたのだが、これ東野圭吾の『魔球』を抑えて乱歩賞を受賞した作品だったのね! 東野作品はそんなに読んでないけれど、個人的に『魔球』は、初期作の中で一番スキな一冊である。正直、本書『天女の末裔』が『魔球』に勝てた作品とはどうしても思えんのだが(まあ、ある種のまとまり具合においては、勝っているかもしれんけど)。
 というわけで評者は、本書の作者・鳥井加南子に「日本のイザベル・B・マイヤーズ」の栄誉を謹呈したいと思います(笑)。

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