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ミステリの祭典

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無頼船長と中東大戦争
トラップ船長シリーズ

作家 ブライアン・キャリスン
出版日1992年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2018/09/07 19:46登録)
 七つの海を塒に、密輸・密入国・国際法違反・詐欺・武器取り引き、スパイから昔ながらの海賊稼業まで、ありとあらゆる違法行為を鼻歌混じりで行う史上最低の船乗り、無頼船長エドワード・トラップ。イスタンブールの怪しげなバザールで、アル・カポネからナンバーズ賭博の売り上げを持ち逃げした70越えのイスラム商人、コルクート・トコグル十五世から贋絨毯を買い叩く最中に事は起こった。
 突如乗り込んで来た男たちにトコグルはあっさりと始末され、トラップはサブマシンガンを突き付けられたのだ。指揮官と名乗る男、ウェストン大佐は彼に200万ドルの儲け話を持ってきたと語る。
 その八日後、船会社の売却に途方に暮れる英国海軍予備役少佐、ミラーの手元に、イタリア・ブリンディジ行の安切符を同封した、子供の落書きと見紛うばかりの手紙が届くのだった・・・。
 1988年発表のトラップ船長もの第3作。作中年代もほぼ同じ。トラップは第一次大戦のロイヤル・ネイビー志願兵の生き残りで、ミラーとの出会いは第二次大戦中、1942年まで遡ります。それから約30年後の1970年代初めに尚も絡みつく腐れ縁をなんとか振り切るも、手紙の誘いに乗ったが百年目、トラップと三度目の悪夢の航海を共にする事になります。
 物凄く胡散臭いタイトルですが、原題は"TRAPP AND WORLD WAR THREE(「トラップと第三次世界大戦」)"ですからもっと酷い。内容もそれに恥じません。最終的には原子力潜水艦2隻とフリゲート艦2隻と、巡視艇+αが沈みます。
 トラップはとにかく金の亡者で儲け話と聞けばダボハゼみたいに食い付く、後先の事は考えない、にもかかわらず持ち前の生命力と土壇場での機転と抜きん出た悪運で、彼を侮った連中は全員海の藻屑になっているという奴です(実はとてもキレる男だとか、そんな事は一切無い)。
 ですが海洋戦争物の一作目は例外として、これが巧みな導入部になっているのがこのシリーズ。欲に目が眩んで安請け合い→徐々にヤバさ加減に気付く→生き延びる為、必死に事の真相を探る というコンボで、結果的に立派な海洋ミステリーが出来上がるという次第。
 話の複雑さは2作目の「無頼船長の密謀船」に一歩譲りますが、リーダビリティやギャグテイストは大きく向上。船は浮かぶスクラップで、船員たちは三歩歩けば官憲にしょっぴかれるような奴ばかり。いざとなれば海の男に早変わりとか熱い血潮が滾るとか、そんな事は一切無い。どうしようもないポンコツ揃いで、垢抜けないというか泥臭い文体にも関わらず、無条件で笑えます。
 ミステリ的にも結構面白い。リビアに上陸しようとするウェストン大佐の真の目的はたいしたことないんですが、偶然と悪運とその場の思い付きとで、トラップが絶体絶命の危機をどう躱すのかがお立会い。「リリアンと悪党ども」のラストみたい。こっちは意図してやってるわけじゃないですけど。
 あとがきによれば、本作の時点でどう計算してもトラップの年齢は80半ばになるそうです。しかしこれはまだシリーズ3作目。この後に4作目「CLOCODILE TRAPP」5作目「TRAPP'S SECRET WAR」と続きます。出版不況の上に北欧オサレ路線に舵を切ったハヤカワが訳してくれるとは到底思えませんが、まあ気長に待ちましょう。7点付けたいのは山々だけど、勇気が無いので6.5点。

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