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ミステリの祭典

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呪いの塔

作家 横溝正史
出版日1957年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2018/08/30 16:18登録)
(ネタバレなし)
 猛暑にうだるその年の夏。出版社「郁文社」の編集者で同時に作家でもある青年・由比耕作は、知己の探偵小説作家・大江黒潮から、軽井沢に避暑に来るよう誘われた。黒潮の借りる別荘に着いた耕作は、そこで大江夫人の折江や映画監督の篠崎宏、女優の伊達京子ほか複数の人物と対面。一同は黒潮の提案で、近所にそびえ立つ300フィートの巨塔「バベルの塔」で殺人ゲームの余興を行うが、そこで本当に殺人事件が発生。しかも濃霧のなかに謎の四本指の怪人の姿が浮かび上がった。耕作は黒潮の幼なじみの天才と称される青年・白井三郎とともに事件の深部に関わっていくが……。

 昭和7年8月に、戦前では有数の描き下ろしミステリ主体の叢書「新作探偵小説全集」(新潮社)の一冊として刊行された作品。作家となった横溝のデビューほぼ10年目の作品で、初めての本格的な長編ということになる(角川文庫版で400ページ近く)。
 300フィート(約90メートル)という戦前の国内建造物ではおよそリアリティを欠く主舞台「バベルの塔」の設定を始め、奇人的な探偵作家、霧のなかの殺人ゲーム、謎の怪人の出没……ともうこの時代からいかにも横溝世界だが、そういった外連味ある趣向の相乗で通俗謎解きミステリとしてはそこそこ面白い。最後に明かされる不可能興味の殺人トリックも現実味はともかく、奇術的な手際としてはけっこうツボである。
 ちなみに主要キャラのひとり・大江黒潮は作家デビューする前、志那蕎麦の屋台を引いていたという楽屋オチからもわかるとおり、まんま盟友・乱歩の投影(さらにもう一人二人、モデルがいる……かな)。その辺に気づくと(気づかない人はそういないと思うが)事件の真相もああ、そういう方向の作品だったのね、という感じでハタと膝を打つ。角川文庫の解説で中島河太郎は本作を「パロディーの趣向」を盛り込んだ作品という主旨の記述をしているが、本当にそうだよね。とはいえ、大概のミステリファンはこの時期の乱歩と横溝がまだ盟友(あの乱歩の『悪霊』中絶事件以前だし)と知ってるから笑えるけれど、両者の関係を知らないで素で読んだ人のなかには「なんだこりゃ」と怒った人がいたかもしれん。そう思うとなんか楽しい。

 最後に、前述の角川文庫版の河太郎の解説は、本文より先に読まないことをお勧めします。思いきりネタバレしてるので。

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